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映画レビュー『ちひろさん』(2023)ぼくらはみんな違う星から来た


元・風俗嬢、今は弁当屋さん

原作は2013~2018年に
月刊女性マンガ雑誌
『Eleganceイブ』に
連載されていたマンガです。
(私自身は未読)

海辺の小さな
お弁当屋さんで働く
元・風俗嬢、

ちひろ(有村架純)の
日常を描いた作品になっています。

「元・風俗嬢」というのは、
本人も隠しておらず、
たちまち近所に
知られることになりました。

美人で愛想がよく、
誰にでも親切に
接する人柄から

たちまち人気の看板娘になる
ちひろでした。

誰からも愛されるちひろさん

ちひろは不思議な雰囲気の女性で、
公園で見知らぬ猫と戯れたり、
知らない子どもと遊んだり、

見ず知らずのホームレスに
お弁当をあげて、
自宅で身体を洗ってあげ、
服まであげるような人でした。

人を外見や肩書きで
見るのではなく、

「今」のその人の目を見て
判断するというのが、
彼女の生き方で、

その精神がすみずみまで
徹底されており、
清々しいほどです。

困っている人を
見捨てることができないタチで、
たびたびトラブルにも
見舞われます。

しかし、トラブルに
遭遇するたびに、

彼女は毅然とした態度で、
それらの厄介ごとに
対処していきます。

そんな彼女の周りには
いつの間にか人が集まり、
その輪の中心には
ちひろさんがいるのです。

こんな女性がいたら、
誰もが近づきたくなることでしょう。

そんな彼女にも
他人には簡単に理解できない
孤独がありました。

人知れず抱える孤独から、
気分が沈んだちひろさんは、

暗い部屋の中で、
一人それを噛みしめる
夜もあります。

それでも時間が経つと、
いつもの元気なちひろさんに
元通りです。

今日もまた、彼女は
お弁当屋さんで元気に働き、
困った人、寂しい人のもとに
駆けつけるのでした。

ぼくらはみんな
違う星から来た宇宙人だ

本作に出てくるちひろさんは、
「天真爛漫」を
絵に描いたような女性で、

この役を演じる
有村架純ならではの
持ち味が発揮されている
気がします。

現実の世界にも、
ごくまれにこういう人がいますね。

周りの人を癒すような
空気を持った人、

裏表がない人、
誰からも愛される人、

誰もがこうなれたら
いいのですが、

こういう人に
なろうと思ってなれるものでは
ないんですよね。

物語の後半の方で
少しだけ明かされますが、
ちひろさんも人生で、
いろいろ苦労してきたようです。

特に、気になったのが、
親とのかかわりですね。

どうやら、ちひろさんは、
家族とはあまり気が
合わなかったようです。

これもまた、
現実の世界でも多く見られる
パターンだと思います。

血を分け合った
親・兄弟であっても、
自分と同じとは限りません。

場合によっては、
そのしこりがずっと
人生に付きまとう場合も
あるでしょう。

ちひろさんは、
劇中で風俗嬢をやっていた頃に
一人の客が言っていた
「宇宙人」の話をしていました。

その男性が言うには、

この世にいるのは、
みんな宇宙人で、
みんな違う星から来た、

だから、みんな自分とは違う
と思うことにしている、

その方が気が楽だと言うのです。

このセリフには、
私も共感するところがありました。

みんな一緒のようで、
ちょっとずつ違っていて、

中には、結構違う人もいて、
まったく合わない人がいるのも
普通のことなんですよね。

そういうことがわからない人は
自分と違う人のことを
想像する力が足りません。

そういう人こそ、
こういう作品に
触れてほしいものですが、

まぁ、なかなか、
難しいところですね。

ちひろさんは、
この男性の話にあやかって、
自分と親は違う星の人だった
と言っていました。

でも、ちひろさんは、
人生の中で、

たった二人だけ
同じ星の人間だと
思える人に会いました。

その出会いがちひろさんという
人格を形成するうえで、
とても大きな存在
だったことがわかります。

現実の世界でも、
人と分かち合えないような
孤独を抱えている人が
多くいると思います。

でも、どんな人も
決して一人ではありません。

きっと、
同じ悩みを抱えている人、
同じ感性を持っている人が
どこかにいるのです。

この作品は、
そういうことを教えてくれる
素晴らしい作品だと思います。


【作品情報】
2023年公開
監督:今泉力哉
脚本:澤井香織
   今泉力哉
原作:安田弘之
出演:有村架純
   豊嶋花
   嶋田鉄太
配給:アスミック・エース
上映時間:132分
配信:Netflix

【原作】

【今泉力哉監督の作品】


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