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マンガレビュー『約束のネバーランド』臼井カイウ、出水ぽすか(2016~2020)勧善懲悪ではない奥深いストーリー


優しいママと子どもたち

このマンガのことをよく知らずに
読み始めた時のことです。

可愛らしい絵柄とその表紙から、
その昔、テレビで放送されていた
アニメ『世界名作劇場』のような作品を
想像していました。

舞台は、グレイス=フィールドハウス
という孤児院で、
世界観はヨーロッパそのものです。

『少年ジャンプ』に連載されている
作品だということは知っていました。

なので、「自分が子どもの頃に読んでいた
『ジャンプ』とは違って、
ずいぶん平和な作品が連載されているのだなぁ」
という印象を持ったんですよね。

なぜならば、孤児院の子どもたちは、
みんないい子ばかりで、
孤児院にいる唯一の大人であるママも
すごく優しい人だったからです。

最初から違和感のあった点を
しいて挙げるとすれば、
孤児院にいる子どもたちの
知能がやたら高かったことですね。

この施設には、
極めて難解な問題を高速で解くテストが
定期的にあるのです。

それ以外の部分で、
冒頭に描かれた物語は、
極めて平和なものでした。

このまま平和な日々が
淡々と描かれていくのだろうか、
と思っていたら、1話目から
その予想は裏切られてしまいます。


―この先はネタバレがあります―

1話目から衝撃の展開

施設には、6~12歳の間に
里親に送り出されるという規則がありました。

ある時、一人の仲間に里親が見つかり、
これまでに施設から巣立って行った
仲間たちと同じように、
お別れをすることになります。

ところが、里親の元に送り出された時に、
その子が大事にしていた、
ぬいぐるみを忘れてしまいました。

忘れ物を届けようと、
後を追った主人公たちは、
そこで衝撃的な光景を目の当たりにします。

送り出された子どもは、
トラックの荷台で絶命していたのです。

さらに、そこには人間よりも
はるかに身体が大きな怪物たちがいました。

怪物たちは絶命した子どもをつまみあげ、
「旨そうだなぁ」「やっぱり人間の肉が一番だ」
と物欲しそうにつぶやきます。

とっさに物陰に隠れた主人公たちは、
なんとか怪物に見つからずに、
施設に戻ることができたのですが、
やがて、この世界の恐るべき真実を知るのです。

勧善懲悪ではない奥深いストーリー

主人公たちは施設にあった、
わずかな文献を頼りに、
この世界の真実に辿り着きました。

それは、この世界が鬼の支配する世界で、
鬼たちは人間の肉を食べること、
そして、この孤児院は鬼が食べるための
人間を生産する施設だったということです。

今まで子どもたちに、
優しく接してくれていたママも
生産者でしかありませんでした。

主人公たちは、施設の仲間たちを
引き連れてここを脱出する計画をします。

全20巻のうち、4巻までが、
この脱出劇を描いたもので、
ママの監視の目を掻い潜りながらの
心理戦が中心です。

5巻以降は、施設の外に出てからの
冒険の物語になっています。

外の広大な世界には、
たくさんの鬼たちが待ち構えていて、
主人公たちは次々に死闘を繰り広げるのです。

鬼だけではなく、
新たな仲間たちとの出会いや別れも
多く描かれています。

本作のもっともおもしろいところは、
勧善懲悪なストーリーではないところです。

鬼が人間を食べるのは、
生きるためであり、
自分たちだって、鬼と同じように、
他の命をいただいているではないか、
ということに主人公は気づきます。

そのことがわかれば、
必ずしも、「人間=善」
「鬼=悪」ではありません。

だからこそ、主人公たちは、
ただ敵をやっつけるのではなく、
さまざまなことに悩み、
葛藤しながら旅を続けます。

その旅のゴールは、
家族みんなが幸せに暮らせることが、
当たり前の世界です。

そこに辿りつくまでに、
主人公たちには、
想像を絶する数々の試練が待ち受けています。

果たして、主人公たちは、
理想の世界に辿りつけるのでしょうか。


【作品情報】
初出:『週刊少年ジャンプ』2016~2020年
原作:白井カイウ
作画:出水ぽすか
出版社:集英社
巻数:全20巻(全181話)

【作者について】
白井カイウ
’15年、読切作品『アシュリー=ゲートの行方』でデビュー。
(ネットマンガサイト『少年ジャンプ+』、
作画:Rickey)
出水ぽすか
’88年生まれ。’11~’15年にかけて、
小学館の児童向けコミック誌などで、
いくつかの作品を発表。
(『てれびくん』、『月刊コロコロコミック』など)
’16年に原作者・白井カイウと初タッグを組み、
『ポピィの願い』を発表。
(『少年ジャンプ+』読切作品)

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