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映画レビュー『自虐の詩』(2007)前半のぶっ飛んだ映像にしびれ、後半で振り返る半生に涙する

泣ける4コマを実写化

原作は’85~'90年に
『週刊宝石』で連載されていた
4コママンガです。
(原作は未読)

連載開始当初は、
複数のシリーズを展開する
内容だったようですが、

途中から人気が高かった
「幸江とイサオ」シリーズに
一本化されました。

初期は4コママンガらしく、
コメディー要素の強く、

その後、幸江の回想シーンが増え、
ストーリー性の強い内容に
変化していったようです。

’04年に NHK・BS2 の
『BSマンガ夜話』で
取り上げられたのがきっかけで、

「泣ける4コマ」
として話題になり、
当時はネット通販でも
完売したとのことです。

苦労が絶えない幸江の人生

主人公の幸江(中谷美紀)は、
貧しい家で育ちました。

母親は幼少期に疾走、
父親は銀行強盗をして
捕まってしまい、

一人で苦労を重ねて
生きてきました。

そんな幸江も大人になり、
大切な人ができたのです。

それがイサオ(阿部寛)でした。

隣室に声が筒抜けになるほど、
壁が薄いボロアパートで、
二人暮らしをしています。

籍は入れていません。

イサオは、幸江と出会ったのが
きっかけでヤクザの世界から
足を洗ったのですが、

ロクに働きもせず、
パチンコをやってばかりで、
いつも幸江にお金をせびります。

幸江が食堂で働き、
家計をなんとか維持していました。

イサオは気に食わないことがあると、
たびたび家のちゃぶ台を
ひっくり返します。

ほとんど喋ることもなく、
「愛している」の一言も
ありません。

幸江の生活は他人から見れば、
不幸のどん底にしか見えませんが、
幸江はイサオと一緒にいられるだけで、
幸せなのです。

前半のぶっ飛んだ映像にしびれ、
後半で振り返る半生に涙する

原作を読んだことがないので、
推測に過ぎませんが、

本作は原作のスタイルを
踏襲しているような
印象を受けました。

前半は、ちゃぶ台返しに
対する幸江の攻防など、
コメディー要素の強い
内容になっています。

後半は、幸江の回想を
メインにしたメロドラマ風です。

『ケイゾク』
『池袋ウエストゲートパーク』
『トリック』『スペック』などなど

数々の映像作品で、
奇抜で魅力的な映像を手掛けてきた
堤幸彦監督が
手掛けただけのことはあり、

前半のコメディー要素が
強いパートは、
非常に見応えのある
エキセントリックな映像になっています。

中でも、イサオのちゃぶ台返しが、
毎回スローモーションで
描かれるのですが、
その迫力はすさまじいものでした。

ちゃぶ台返しに
幸江もまったく抵抗しない
わけではありません。

接着剤でちゃぶ台の足を
畳に固定し、
ひっくり返せないようにします。

ところが、イサオも
それで諦めるわけもなく、
今度は畳を持ち上げて、
畳ごとちゃぶ台をぶちまけるのです。

この攻防が、
映像のおもしろさもあって、
思わず笑ってしまいます。

前半はそんなおもしろい描写が
多くありますが、

後半は、学生時代も含めた
幸江の苦労の数々が描かれ、
その不遇な生い立ちに
思わず同情してしまうんですね。

このギャップが
なんともおもしろいんです。

「笑い」というのは、
極論を言うと、
「恵まれなさ」だと思うんです。

順風満帆に育ち、
満たされた人間に
あまりおもしろみはありません。

いろいろ苦労して、
それでもめげずに
生きているからこそ、
人は魅力的になるんですね。

そういうことに
気づかせてくれる作品でもあります。

どんなに不幸でも、
本作の主人公・幸江ほどの
不幸な生い立ちはないかもしれません。

それでも、幸江は諦めません。

「どこかに幸せがあるはず」
と信じてやまないのです。

そして、幸江が最後に
辿り着いた答えに
納得させられます。

「幸」とか「不幸」は、
人間が勝手に決めつけているもので、
本当はそんなものはないのだ、
ということに幸江は気づくのです。


【作品情報】
2007年公開
監督:堤幸彦
脚本:関えり香
   里中静流
原作:業田良家
出演:中谷美紀
   阿部寛
   遠藤憲一
配給:松竹
上映時間:115分

【原作】

【堤幸彦監督の作品】


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