スピンネーカー

卵をもらったからおりょうりをした
空の殻の片割れにつまようじの帆を立てた
小さなヨットを洗面器に浮かべる
円盤の海がここに一つ生まれた

ヨットには幼い王様と家来たちがいて
今はよく手品をして遊んでる
船首は舞台、海は観客
ほうら、この二本のひもが一本になるぞ
さん にぃ いち、
ぽとり
あれあれ、二本のままですよ
拾おうと正直者の家来が腰をかがめる

ああこらこら、声がする
だめじゃないか海におしりを向けては
観客にはちゃんと顔を見せていなくちゃ
そう そうだ そうだな
このことばを忘れずにいたい
家来は強く思った

夜になると子どものかもめが降りてくる
星の数を数えにいったんだ、かもめは言う
いくら飛んでも飛んでも数えられなかったよ
そりゃあそうだよ、一番えらい家来が言う
みんなわれわれの、未来の姿なのだから
そうかぼくらだって
数えても数えても数えきれないものね
よしお母さんに答えを教えにいかなくちゃ
それじゃあ、かもめは巣へと帰ってゆく
ヨットは洗面器をゆらゆら進み続ける

これが僕なんだって、僕はわかった

僕はこんなちっぽけな海ににすぎない
僕はこんなちっぽけな海でいいのだ
疲れたときは歩かなくたっていい
だってヨットが勝手に進んでくれるのだから
だったら僕はどれだけ世界が難しくとも
せめてこのちっぽけな海までは知りたい
だから、僕は決意するのだ
だからそれまでは
後ろを向くのだけはやめにしよう
波が高い日も霧で見えない日も
いかりを下ろすことがあったって
前だけは見ていようじゃないか
海に僕を知ってもらうんだ
僕に海を知ってもらうんだ

夜空のアルビレオを探す家来と目が合う
今は晴れ
僕はふくらんだもう一つの帆を
指差して一つ教えてあげる

スピンネーカーって、言うんだよ。

ほうら、追い風が来る

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