ワタナベアミ

まいにちを言葉で綴ります。

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最近の記事

生きている

風をきる。 きるというより、熱風に体全身を煽られている、気分。 歩道を走れば、邪魔だろうし。車道を走れば、邪魔だ。 どちらにいても邪魔な存在の自転車に乗って、今日は車道を選んだ。 歩行者が多い日は、左端ギリギリの車道を走る。 信号が変わり、いっせいに走り出すと、大きなトラックが横を抜けていった。 またひとり風に残されて、トラックからは懐かしい匂いがした。 高校生の頃、信号待ちをしていると、このように隣を通っていくトラックには、生きた鳥や豚が乗せられていた。生きている匂

    • 空想のなかみ。

      無人の駅があることを東京の人は想像できないという。私の実家の最寄り駅は、数年前に駅舎が取り壊された。その後、バス停ほどの小さなプルハブが建てられた。 市街地にはもちろん駅舎があり、駅員さんもいる。帰省したら一番最初に使う駅は、地元で一番大きな駅。考えられないかもしれないが、改札はない。全て手作業。切符を駅員さんに渡し、スタンプの押されたものを受け取る。チャージなどの便利さはないが、鳥の鳴き声はしない改札もいい。 最寄り駅に着くと、相変わらず大きな声を出していた。「お金を入

      • 鳴らしたくなる

        古いインターホンには、音符がついていた。それも八分音符。今からこれを押しますぞ!と心の温度が少し上がっていた。無くなって、スタイリッシュにはなったけれど、まだ使い続けている家をみつけると、つい鳴らしてしまいそうになる。 音が好きだ。ピンポーンと表現される音にもたくさんの音が集約されている。うちなんて、ぱららぱららと音が鳴るし、びんぼーんと聞こえるやる気なさそうな音も聞いたことがある。 宅配便のお仕事やデリバリーをしたら、きっと出会いが多いはず。こんなエッセイを書いているも

        • 思いやり

          「恋人はいるの?」 私の尊敬する友達の言った一言。忘れっぽい私が、声や場所さえ覚えているくらい、心に響いた言葉だった。 私は、どちらの性も好きになったことがある。異性の方が圧倒的に多いけれど、同性の場合も同様に、ときめいたり悩んだりして恋をしていた。高校生になって、ある同性の人と結婚したいと言ったとき、「かわいいもんね」とすんなり受け入れられた。あ、おかしくないんだ。受け止めてもらったことによって、心のときめきも明るいものへと変わった。 先の問いをされた時も、同じように

          図書室にて

          図書室にいると、心が空っぽになる。本の香りで、周囲の香りは止み、みんなが作り出す静寂は心地がいい。この思いやりの音も結構好きで、そっと本棚に戻す音、ヒソヒソ話す声、足音を立てず歩く音、音は鳴っていても寛容になれるのだ。 いつもは一人でくる図書室に二人で来てみた。少し気になる人だから、少し、ほんの少しだけ意識してしまう。パーテーションがあってよかった。白くて薄い壁が、心を落ち着かせる緩和剤になってくれた。やっぱり視界に霞む人を見ると、ちょっとドキドキするけれど、ここが図書室で

          知らないうどん

          つるんと柔らかい中にもコシがある。それが私のなかのうどんだった。職人が麺をこね、太めに切るのを「柔らかそうだね」「やってみたくない?」なんて言いながら、列に並ぶ。 サークルの昼食。新人としての私は人見知りを十分に発揮しながら、取材かのように質問攻撃。同じ席に五人は座れず、じゃんけんで別れることに。同じく二年で新人のJさんと重なった。一つ年上のJさんと、たわいもない話ができるようになっても、うどんのモニモニ感に視線が移ってしまう。お出汁の香ばしい香りがして、席へ案内された。

          知らないうどん

          想像は創造

          ありがたいことに天候は、夏日から春の爽やかさを取り戻した。雨が降るとのことで少し大きめのビニール傘を手に家をでた。傘のせいか思いの外到着が遅れ、ギリギリに改札を抜ける。身体の中心を風が割り込もうとするけれど、グッと踏ん張って6号車へ乗り込む。 地下鉄に乗れば、時間軸が迷子になって眠くなる。学校まで数駅を乗り過ごしてはいけないので、慌てて小説を開く。文章、言葉が入ってこない。何かがおかしい気がする。そう思って、小説を閉じ車内を見回してみる。 ない、広告がない。中吊りも、窓上

          ともだち

          友達の基準って人によることを知った。 私にとっては、話をしたらもう友達で、次にあった時には、あーっと駆け寄り挨拶をする。これで友達と思う人ばかりだと思っていたのだけれど、友達がいないと友達が漏らしたときは衝撃を受けた。あれ、私たちって。と思いながら知った。自分の価値観の友達の基準は自分が決めたもの。相手なりの友達のカタチがきっとある。 友達と親友には大きな違いがある。親友は両手に入るくらいだけれど、友達なら何百人といるはず。それが私の片想いかもしれないけれど。連絡を取り合う

          にぎやかな教室

          昨日、ゼミの選抜が行われた。なんと言ったらいいのだろう。ここに入りたいと決めたからこそ、落ちたくない。みんなそうだから教授は大変だろう。「落ちたくない」「落とすな」「お願い」なんて念の圧に押されながら選抜するのだから。 この日ばかりは思いのほか勇気ある行動もできた。第一希望のゼミに来ていた人に声をかけて、どこを希望しているか聞いたり、先生に入りたいことをアピールしたり。おかげで少なかった友達の輪は広がり、不安も紛れた。 バイトまで時間が迫っていて、打ち込む言葉が頭に入って

          にぎやかな教室

          自由って

          四ヶ月ぶりの美容室。毛先が明るくなって、田舎のヤンキーのような感じになってきたので、暗くすることにした。田舎のヤンキーと言っても、いろんな派閥があって、好きなものもセンスも価値観も違うのにひとくくりにしてはダメか。気をつけます。 「マスク外して大丈夫ですよ」 カラー剤が付くから、替のない人は外すそう。 言われて気がついた。私、リップ塗ったっけ。 いつも意味もないのにリップは塗る。出かける前に鏡を見た時、顔色がパッと明るく見えて、気分が高揚するから。家のドアを開ける手が軽く

          カラフル

          今、学科のラウンジにいるのだが、羨ましいという感情に溺れそうである。向かいの机に座る人は、まろやかだが鋭さのあるミルクティーのようなシルバーのような髪色。左側に座る人は、鮮やかでパキッとした印象を残す蛍光ピンク。 接客のアルバイトに就いたことにより、髪色に規定がある。茶色にしか染めたことがない私もいれば、毎月色が変わっていく友達もいる。どの色になってもみんな似合うから、私のしたいカラーリストは増えていく。でも、自分は似合わないかもな。あんな色にするのすごい勇気。なんてちょっ

          繋がっている

          母からお皿が届いた。北欧食器のいいやつ。とっても欲しくて、ずっとネットの中をウインドーショッピングしていたので、手元にあるのが不思議で嬉しい。お茶碗も一年で割ってしまった私だ。丁寧に丁寧にしないと。爪先にまで意識が向く。それでも嬉しさは心を突き上げてくる。割らないようにぎゅっと抱きしめた。 「誕生日と母の日近いやん。プレゼントしようと思って」 そう言うと、母は私が思い立った日と同じ日にお皿をプレゼントしようと考えてくれていたらしい。私たちは親娘というか双子のようにシンクロす

          繋がっている

          ぼんやり

          授業が始まるまでの10分間、いざぼんやりしてみると、こうして壁を見つめることもしていなかったのだなと気づく。いつも何かを見ていないと落ち着かなくて、心と向き合うのを避けていた。電車では本かスマホ。家では、音楽かラジオかテレビ。無音のなか、何も考えることが思い浮かばない。短歌を作ろうとしながら、十分では作れんやろ!と我に帰った。 一人でいることに慣れていない私は、いつも何かで心を埋める。空洞を空っぽのままにしていたら、スースーとして少し痛いから。 ゆっくりと息をして、声を出

          ひとりごと。

          一人でカフェに行くことが好き。整骨院の予約まで空いた2時間をつぶすため、アイスコーヒーを頼んだ。日曜日だからか、すごく混み合っている。隣には中学生集団と女子会をする方々。この近くには大きなアニメイトがあるからだろう。女性らは全員同じバッグを一つの席に置いて、整理されたグッズをプレゼントしあっている。 ストローを短く食む女性は50代、個性的なGジャンを羽織った女の子はきっと10代、その場を進行する声の落ち着いた女性はもうすぐ30代に突入するくらいか。世代を超えた空間が隣に広が

          ひとりごと。

          まろやかな風

          なにかが足りない気がして鏡をもう一度覗くと、アイラインを引き忘れていることに気がついた。小さい目をなんとかして大きく見せるためにいつも薄く引くライン。薄く目立たないようにするものの、意外と重要。 財布の中に小銭しか入っていないような心もとなさがぐっと迫る。地下鉄はすぐに暗くなって、姿を映すから厄介だ。何度目があっても小さな瞳だ。ああ、二度寝してばたばたと家を出たからか。 ちょっぴり後悔しながら、上白石萌音さんの「いろいろ」を開く。もともと上白石さんのことが大好きで、雰囲気

          まろやかな風

          アートになれる街

          お気に入りの冬服とのお別れを惜しんでいたところに、冷たい雨がやってきた。気温はぐんと下がり、ダウンを収納ダンスから出した。「しまうことなかったのに」とかわいい声が聞こえた気がした。 久々に街はシックな色になった。混雑した駅の改札までの道のりを眺めるのが結構好きなのだが、階段を大勢がのぼるとき、服の色の連なりが美しい。 春のようなあたたかさがあったこの前の階段は明るく、ピンクやブルー、グリーン、鮮やかな色が目立ってイキイキとしていた。ここ数日、寒さもあって黒やグレー、シロが

          アートになれる街