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アメリカ印象派展開催中“隠れ睡蓮“を探せ!

東京・上野の東京都美術館で絶賛開催中の「印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵」。
おかげさまで連日たくさんのお客様にご来場頂いています。本展プロデュースに関わる者として、心より感謝申し上げます!本日は本展のメインビジュアルの一つ、モネの《睡蓮》の、ちょっとツウなお話第2弾(第1弾は、文末をご参照ください)


▶「《睡蓮》を観るとその日の天気がわかる」

多作家で数多くの睡蓮を描いたモネですが、本作では、タイトルの睡蓮は画面の左隅に描かれています。画面中央はぽっかり空いていて、カンヴァスを支配しているのは池の水面とそこに映る青空、水面に枝垂れる柳の影です。
 
 今を去ること10年ほど前、2015年に今回と同じ東京都美術館でパリ・マルモッタン美術館所蔵の「モネ展」を開催しました。この時にご来場頂いたあるお客様の一言が今も印象深く心に残っています。

「モネの《睡蓮》を観るとその日の天気がわかりますね」

まさに意を得たり!本作でも画面中央に広がる水面には青空が映り込み、その日の清々しい天気が感じられます。そしてモネが描きたかったのは「光」と「空気」という、“目には見えども形はあらず“ というものだったことを実感します。

▶”隠れ睡蓮”を探せ!

展覧会の展示では、作品を壁にかける前に1点1点作品の状態や異常がないかを修復家の方が点検する「コンディション・チェック」と言われる作業があります。今回、そのコンディション・チェック中に、ちょっと興味深い発見がありました。
  画面左下、睡蓮の葉と花が描かれている部分に、他より少し絵の具が盛り上がっている箇所があるのです。大きさにして約2〜3センチ四方。画面全体を覆う、グレーがかった淡い青紫の絵の具の下から赤みがかった絵の具が透けて見えます。

少し盛り上がった絵の具の下から赤い絵の具が・・・

 修復家の方いわく、画家が一度描いた花を塗りつぶしたのではないか、と。確かにその左側には赤い睡蓮の花がくっきりと描かれています。“見える花“と“塗りつぶされた花“ー。モネは2輪描いた後にそのうちの1輪を塗りつぶしたのか、1輪描いて塗りつぶした後に2輪めを描いのかはわかりませんが、一度描いた花を塗りつぶしたことだけは確かなようです。

画面左端には、しっかりと描かれた赤い花が。

 画家の多くはカンヴァスに向かう時、まず構図を決めるのが通常です。本作でモネは、画面中央に水面を描き左下に睡蓮を配置する、という構想はありつつも、どのような色と形で睡蓮を配するかは描きながら決めていったのかもしれません。「塗りつぶされた花」という、見過ごしてしまいそうなディテールから想像を膨らませ、モネほどの巨匠でもそうやって試行錯誤をしながら作品を作り上げていったのかと思うと、どこか人間らしさを感じて、作品がより一層愛おしくなったりもします。

ウスター美術館所蔵
クロード・モネ《睡蓮》(1908年)

▶作品の「本当の顔」

 64日間の会期も折り返し。展覧会をプロデュースする側として何よりも嬉しいのはお客様の反応で、連日Xの投稿などをチェックして励まされています。そんな投稿の中から、特に印象的だった一つを引用します。

一枚の絵を辛抱強く眺めていると、その絵が「本当の顔」を見せてくれることがある。パッと観流だけでは気づけない秘密の美を、「あなたには特別にね」とでも言いたげにこっそり見せてくれる。絵の鑑賞が面白いのはこの瞬間だ。印象派展でモネの『睡蓮』を観たときも、まさにそうだった。

美徳@01mino20 さんのXより

・・う〜ん、深い!

 一つ一つの作品は世界でたった一つ、唯一無二の存在で、創作された瞬間から変わらずそこに存在しているのに、観る側の気持ちや心持ちで違って見えることはよくあること。今回出展されいてるモネの《睡蓮》はとりわけそんな気持ちにさせてくれる逸品です。

 「隠れ睡蓮」を探しに、そして作品との対話を楽しみに、会場に足を運んでいただければ嬉しいです。
 
「印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵」は4月7日(日)まで開催中です。





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