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【読書記】「低度外国人材」の送り先で読んだ『「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本』

4月末の連休から続く読書週間は、ベトナムにおける新型コロナ感染の再燃によりすっかり電子書籍「読書月間」。あちこちに行きづらいのはストレスたまりますが、これだけは唯一ステイホームの良いところでしょうか。

少し前の「【読書記】ハノイで読んだ「現代中国の秘密結社」とベトナムの秘密結社?」に続き、今回はまたしても安田峰俊さんの著作。そして舞台は日本ながら、ベトナム人に関することも多いと楽しみにしていたこちら『「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本』です。

「低度」ありきの現在の日本社会

まずはこの「低度外国人材」という挑発的なタイトル、コロナ禍で最近ちょっと聞かなくなりましたが、これは日本政府が進める「高度外国人材」にかけたもの。自分も最初からこの「高度」という言葉遣いには違和感があったものの、その対義語(!?)の「低度」を読んでみると、腑に落ちるものが多くありました。

低度外国人材、もう少し自分的に柔らかい表現にするなら「一般労働者」は、「技能実習生」「留学生」という形で、既に何年、何十年にもわたって少子高齢社会の日本に来ており、そのニーズが更に加速する中で、その主役を中国人をベトナム人に変えながら、今より大きな規模で日本に来ているというわけです。ところがいつまで待っても簡単には来ないから、「高度外国人材」は別途政策を打ち出す必要があるわけですよね。

憎めない、けど無条件にも愛せないキャラたち

著者がインタビューしたり、或いは時に彼ら・彼女らの問題に関与する形で描かれる、本著で出てくる多くの人物は、単に無機質な取材対象ではなく、そしておかれた状況、著者に対しての反応も様々。そしてその多様さをそのまま受け入れる著者の語り口により、「低度人材」たちは時に魅力的に、時に愛おしく、そして時には「ムカつく」生身の人たち。単に紋切り型の「可哀そう」なだけではない、したたかだったり、「そこで、そう来る?」というような彼ら・彼女らの思わぬ言動も、本著の面白みの一つです。

何でも自分でドンドン解決できるような環境・能力を持つ人たちは、リスキーとも言える「海外への出稼ぎ」を必ずしも選ばず、ベトナム国内で頑張ったり、より確実な形で留学したりします。そうではないがゆえに借金を抱えながら日本に来る、そういう状況の人たちには、確かに本著内である人が言うように「情報感度の低い」面はあるのでしょう。ただ当然といえば当然ながら、だからといって不法な行為で搾取していいわけがない。そのシステムの現実と、それがゆえ若い彼ら・彼女らが陥る問題にも、ぶつかり取材で向かい合っています。

いつまでもあると思うな「日本イイね」

ただ、そういった基本的な権利が守られていない日本の制度を黙認していけば、ベトナムが変わり、ベトナム国内の状況が良くなるにつれて、日本という行き先に対する態度は、現在の若い中国人世代が感じるものに近くなってくるでしょう。「日本に行くなんて、全然割に合わない」と。

もちろん、「実習」部分はともかく、ある程度のお金を稼いで帰ってくる実習生たちもいるのでしょう。でも、それはそうでない人たちが搾取される(そしてその割合は「例外的」と言えるほど少なくない、っていうか結構多い)ことを正当化できるものではありません。上記ツイッターで紹介したように、色々な情報は数年前からベトナムにもメディアを通じて、SNSを通じて入ってきています。そして、それら一つ一つが「親日」と呼ばれるベトナム人にも徐々に伝わってきているはずです。「ベトナムは親日、嫌中」という見方は、現状はそうであると自分も思いますが、いつまでもそうである不変の原理かどうかはわかりません、その時代を生きる人々の努力次第なはずです。

ただ、その状況に危機感を持って動いている日本人もいます。以下、伏原さんが進める「越日希望の轍プロジェクト」はその代表的な一つです。こういった一つ一つの取り組みが、ベトナムの人たちの日本への、日本人への見方を支えるのだと思っています。

モヤモヤはモヤモヤのままで

と、ついベトナムの話題になったところで熱くなってしまい、読書記から離れてしまいましたが、閑話休題&最後に。

私が安田さんの書籍を読んで毎回感心し、かつ共感できるのが、著者の問題に向かい合う態度です。それは「客観・中立」というのともちょっと違う、「率直」なものです。著書の最後に安田さんが改めて吐露している、ご自身が得意とし、経験も多い中国・中華世界へのアプローチと違い、他の東南アジア、イスラム世界から日本で独自な社会を形成する人たちに対する「微妙な違い」を表現し、かつそれを隠さないこと。そしてその中でも本著で多くの紙幅が割かれたベトナム人社会に対して、徐々に理解が深まる中で「慣れてきた」過程も示していくなど、そこには「こうあるべきだ」論とは違った視点を与えるという、著者のワールドの真骨頂かなあと思います。ルポの中で著者がどこにいるか、それが良くわかる気がするのです。

最後にはこのコロナ禍でなかなか海外に取材対象を広げられない悲しさも、これまた正直の吐露されていました。安田さんの新たな新機軸の著作を待つためにも、早くコロナが収まって、移動が自由になって欲しいものです。

11年間ベトナム(ハノイ)、6年間中国(北京、広州、香港)に滞在。ハノイ在住の目線から、時に中国との比較も加えながら、ベトナムの今を、過去を、そして未来を伝えていきたいと思います。