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【二つの徒競走】

一昨日、秋晴れの青空の下、息子たちが通う小学校にて運動会が行われた。コロナの影響により、2学年ずつに別れての開催。自分たちの開催時間以外は教室にて通常授業が行われた。応援団もなく、競技中の応援合戦も聞こえない。それでも、一生懸命に練習した成果を見せてくれ、親は我が子たちの勇姿を目に収めることができて嬉しかった。徒競走にはそれぞれドラマがあった。

その1.次男編
次男は、徒競走で1番を取った。
それ自体喜ばしく誇れることだが、次男にはこの「1位」が特別な意味を持っていた。

1か月ほど前から、あるゲームアプリが欲しくて、毎日のようにおねだりに来た。聞けば、アプリは有償で5千円ほどするという。そんなに簡単に「はいどうぞ」といえる金額ではない。また、ゲームが増えればそれだけ遊ぶ時間も増えると親としては面白くない。本当に欲しいか確認の意味も込めて、返事を保留していた。

1週間ほど前になって、いよいよ本気度が上がってきた。やっぱりそのゲームアプリが欲しい、と。すると次男、「徒競走で2位以上だったら買ってくれる?」と交渉を持ちかけてきた。それはお父さんと相談して、というと夫の下へ向かった。

なぜ2位以上か。同じ組にリレーの選手がいて毎回練習で勝てないそうだ。わかったと言いかけた夫、ゲームの金額を聞いて顔色を変える。「そりゃ1位だろ」と。

そして、1位を取るためのコツを伝授する。先生が「ようい!」とピストルを構えたら、いつでも出られるように走る準備をしておく。ピストルの音が鳴り始めたら走り始める。本当のゴールの10メートル先にゴールがあると思え。そして、ゴールまで後ろを振り向かず、全力で走り抜け。

前日も、「よし、絶対に1位を取るぞ!」と意気込みを見せる。お風呂の中で夫とコツの確認をする。ところが上がってくると弱気発言が出る「ママ? 2位だったらどうなるの?」。そこで、2位だったら鉛筆の持ち方を直して字がきれいに書けるようになることが条件かな、と救済措置を出す。すると安心して眠りについた。

当日朝は「絶対に1位を取るんだ!」と立ち直っていた。そして迎えた本番。そわそわする様子が遠くからよくわかる。母はビデオカメラを構えて準備万端。先生がピストルを構えて「ようい」「パン」。白い帽子の我が子が飛び出してきた。コーナーにいた私の前を1番で走り過ぎる。そのすぐ後ろを赤い帽子のリレー選手が追いかける。デッドヒートだ。最後の直線を次男は一気に駆け抜ける。そのままゴールテープを切った。

後ろ姿を追っていた私は勝敗を見届けられなかったが、1位の子どもたちが並ぶ列に次男が連れてこられてようやく結果がわかった。すると、目がじわっとにじむ。

有言実行。

次男はどちらかというと競争心が低く、掲げる目標もあまり高くなく、人の良さで生きているところがあり、この先これでよいのだろうかと正直心配だった。けれども、どうしてもやりたいことには力を出せることがわかった。夫は五千円の出費だと言っているが、この経験はまさにプライスレス。思い返してまた涙ぐむ。

その2.長男編
今年の運動会に対して長男は冷めていた。毎年「徒競走で1位だったら、賞金いくらか?」と夫と交渉を始めるのに、何も音沙汰がない。応援団もなく、応援団長として活躍する同級生の姿もなく(長男は応援団長をするタイプではなく)、中学年、低学年もおらず、また、毎年恒例の騎馬戦も、今年は別の競技に変わっている。盛り上がりがなく、体育の授業参観が少し長くなったぐらいだったかもしれない。

当日朝も何もなく、制服を着てランドセルを背負って水筒をぶら下げていつも通りに「行ってきます」と出かけた。

そして午後。高学年の運動会が始まった。5年生の徒競走に続いて6年生の徒競走が始まる。長男の番。長男は第1コース。同じ列に並ぶ子たちの背が高い。ピストルの音とともに外側の子たちが一斉に内側に攻めてくる。始まったらコースは関係ない。すると後ろから走ってくる子が転んだ。それに釣られて長男も体勢を崩した。転びはしなかったものの出遅れた。必死に追いつこうとするが、前を走る三人の気迫に押されて割り込めない。4位でゴール。初めて入賞を逃した。

6年生にもなると体格差が大きい。小柄な長男は体格のハンデがある。もしかすると、体勢を崩さなかったとしても入賞は難しかったのかもしれない、と納得してみる。

一日経ってさりげなく、「いつもは徒競走で勝ったら賞金欲しいって言い出すのに、今年はどうしたの?」と聞いてみる。無言。「勝てる自信なかった?」と聞くと首を横に振る。「運動会が面白くなかった?」にも横振り。どうしたん? と聞くと、

「もう満足しちゃったから、いいかなって」
徒競走で賞金もらうことを何度も経験したから、もういらなかったそうだ。

練習では何位だったの? と聞くと「2位」と。それなのに、4位という結果に全く悔しがらない。世の中そういう理不尽なこともあるよ、と諭してみたが、実は他人との競争に興味がないのかもしれない。

ちなみに、「クソゲーだ」で面白くないと言っていた団体競技ではズル賢さを発揮し、相手方にやられることなく宝を手にしてチームに貢献していた。チームメートと協力して敵の上を行く。そちらに興味がある方が、これからの世の中を渡るのに良さそうだ。

二人二様の運動会。親も学ぶこと多し、だった。

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