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自炊

料理を、親に教わらなかった。
ラーメン屋のバイト時代に少し学び、後は一人暮らしを始めて独学で覚えた。
たぶん母上が、子供に教えるより自分一人で作る方が早いと判断したのであろう。
それでもまぁ、数回は実家の台所に立った記憶がある。
皿を割った記憶とか、卵を割ったら足元に墜落した記憶とか。

その中でも時々思い出すのが、初めて肉を包丁で切った日のことだ。
野菜には挑んだことがあった。
初めての、塊の鶏肉。
左手で肉を押さえる。冷たくて柔らかい。
包丁の刃が入るグニッという感触に、背筋がぞわっとした。
あ、これ絶対駄目だ。と感じた。

あの時、自分は何歳だったのか。
たぶん小学校低学年だったはず。

いたいけな小芋けんしーは、その瞬間
「鶏肉と間違えて左手を切ってしまっても、右手は気が付かない。何故なら同じ肉だから」と思い込んでしまったのである。

あほか。

お前の脳みそと両手、別売りか。
お前の左手は手羽なんか。

と、今なら思う。
しかし小芋は、半ベソで「怖い、もう出来ない」と、包丁を返上したのである。
その夜、痛てーっと悶える左手と、構わず調理を進める右手に挟まれて泣きわめく夢を見たのは言うまでもない。

あほな子供だったなぁ、と感慨にふけりながら、今日は鶏をどうしてやろうかと頭をひねる。
もちろん、いつの間にか泣かずに切ることができるようになっていた。
最近になって婆さまは、昔から料理が嫌いだったとカミングアウトしてきた。成程。
苦手で嫌いだから教えたくもなかったのか。
自分は何も教えなかったくせに、「揚げ物が食べたい」と、無邪気な顔で宣う。
当方の製造元なのだが、たまに腹が立つ。


推しは、忙しい生活の中たまに自炊をし、もっと自炊をしなければとたまに呟く。
心意気だけで充分だよ!
バランスよく食べてさえいれば。

ラジオで「嫌いな野菜はあるか」と問うたら、「ない!」と即答する良い子である。
これからも栄養バランスにほどほど気をつけ、元気に長く活躍していただきたい。


☆ヘッダー写真、またお借りしました。ありがとうございます。


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