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しがCO₂ネットゼロ次世代ワークショップ|DAY3

インパクトラボの窪園です。

8月18日に滋賀県東近江市にて、しがCO₂ネットゼロ次世代ワークショップのDAY3が行われました。本noteでは一件関係ないように感じる農業とCO₂ネットゼロの関係を解き明かしつつ、滋賀で生きる皆さんの取組を紹介します。そしてこのワークショップでは学びをふまえて東近江市での取組のアイデアを探ります。

農家さんにお話を聞く その1

初めに遠藤さんご夫婦にお話をお聞きしました。遠藤さんは新規就農者で、主にトマトとメロンのハウス栽培をおこなっています。

私たちがお話を聴いた時間は9:30ごろで、いつもならばこの時間はお休みだと遠藤さんは話します。暑さを避けるために、5:00ごろから9:00ごろまでと夕方に分けて作業を行うそうです。ハウス内は想像よりも温度・湿度が高く、先ほどまで暑かった筈のハウスの外が非常に涼しく感じたのが印象的でした。暑さの影響は農作物にも出ているようです。トマトは夏野菜にも拘らず高温障害を起こし、実りの悪さにつながってしまいます。遠藤さんのハウスでも実際に暑さの影響で花粉ができず、トマトトーンと呼ばれるホルモンを手作業で一つ一つ花につけるようです。「低い姿勢での細かい作業は非常に大変。」と遠藤さんは話します。花だけにホルモンをつけるため、食紅を混ぜて付着させた部分をわかりやすくする工夫なども明かしてくださいました。

次に見せていただいたのは土壌消毒の現場です。同じ作物を作り続けると土壌の成分のバランスが悪くなる連作障害を引き起こしてしまいます。そこで薬剤散布に加えて、バーク堆肥や愛のまちエコ倶楽部で販売を行なっている「もみ殻くん炭」を土に混ぜます。もみ殻くん炭の役割は、ハウス内の水はけを良くすること、土壌内の高密度が原因とされるトマトの病気「青枯れ病」の予防、そして何より「炭素貯留」です。「もみ殻くん炭は16袋×5棟分も使います。最初は炭素貯留の役割があることを知らなかったが、そういった側面もあることは環境的にも非常に有意義だと感じる」と遠藤さんは話しました。もみ殻くん炭は一般的には「バイオ炭」と呼ばれ、国際的にも注目度が高くなってきています。そしてこのもみ殻くん炭は愛のまちエコ倶楽部さんで作られています。非常に意味のある炭素貯留というCO₂ネットゼロの取組を地域内循環の中で行うことができている点で素晴らしいものだと感じました。

もみ殻くん炭について説明を受ける参加者ら

 一方で課題もあります。ハウス栽培であるため、燃料費高騰の影響は非常に大きいようです。旬の時期と出荷時期をずらすことができるハウス栽培のメリットと燃料費高騰のデメリットを天秤にかけ、常に検討する必要性がありそうです。またエネルギー源が化石燃料に依存している場合、ハウス栽培は多くのCO₂を排出し、環境に悪影響です。今後は燃料費高騰のような経済的影響だけでなく、環境的影響も考慮していく必要があります。(遠藤さんのハウスではトマトとメロン栽培で年間1/3くらい加温をしているそうです。)しかしながら農家さんにとって経済的な負荷と比べると、環境への負荷に関しては自身に直接的で短期的なダメージがないため意識しにくいのではないかと思います。私たちが考えるCO₂ネットゼロの取組には農家さんが環境的影響にも簡単に配慮できる、農家さんにメリットがあるような取組を考えたいと思いました。

遠藤さんにトマトの栽培について教えてもらう参加者ら

農家さんにお話を聞く その2

続いて松本さんご夫婦の農園にお伺いしました。松本さんは新規就農者で、今年7年目になるそうです。有機農法で、日本で古くから愛されてきた里芋、まくわ瓜、ササゲ等の在来野菜を育てているそうです。元々、機械開発に携わるサラリーマンとして働いていた松本真実さんですが、趣味として「野菜の追っかけ」をしていたそうです。「野菜の追っかけ」とは日本由来の野菜の調査のことです。「農山村地域に行くと、そこに住む高齢者だけで育ててつないでいる名前の無い野菜がある。その野菜を知って、自分も繋いでいきたい。」と松本さんは話します。

例えば、ささげという野菜。この野菜はいんげんとおなじマメ科の野菜で、「お盆に仏壇に捧げる野菜」というのが名前の由来だそうです。松本さんは、「数十年前までは出回っていたが、急激にマイナー野菜になった」と市場での野菜の変化を指摘します。また「5年前まで作れていた野菜が暑さの影響で作れなくなるといった事例もあり、適地適作を考えると沖縄以南の野菜を栽培することも考えていく必要がある。」と松本さんは話します。実際、松本さんはアジアの友人から種を貰い、東南アジアの野菜の品種を作っているようです。

参加者に向けて話をする松本さん

有機農業から考える、持続可能な農業とは?

有機農業を始めたのは、「『海外資源である化学肥料や農薬、種』を使うことなく地域の資源だけで自分達の生活を賄うことはできないか。」と純粋に考えたのがきっかけだったと松本さんは話します。海外資源である化学肥料や農薬を使わない、土壌保全に努めるなどといった持続可能な農業を奨励する有機農業は重要なCO₂ネットゼロの取組の一つです。しかしながら有機農業にはさまざまな苦労があります。特に雑草処理は大変で、その労働が直接的に経済的価値を生まないため、よりもどかしさを感じるそうです。現在行っているのは太陽エネルギーを利用して地上から2cmの雑草の種を死滅させる、ビニールマルチを使った手法です。松本さんは、「この手法はまだ適法とは言えない。有機農業の技術は未発展の分野。若い人に期待したい。」と参加者に強く訴えました。

ビニールの側に生える雑草を抜く参加者ら

続いて炭素貯留についても教えていただきました。松本さんの農園ではイネ科の葉を緑肥として使っています。イネ科の葉を土にすき込むことで炭素を貯留し、土壌の成分のバランスを整えています。他にも緑肥としては窒素を固定するというマメ科の植物がよく知られています。化学肥料を使わないという点だけでなく、炭素を貯留し、大気中のCO₂を土壌に固定・有効活用できる点で、高く評価できる手法だと感じました。

アイデアワークショップ

菜の花館に戻ってきた後、アイデアワークショップを行いました。まず、テーマに関する先行事例を調べるという宿題の発表を行いました。グループ1は有機農業、グループ2はフードテック、そしてグループ3は地産地消をテーマに先行事例の調査をしました。有機農業を調査したグループ1は人手不足や食品ロスなどの農業の課題に着目し、その解決策を模索した他地域の取組について発表を行っていました。一方でグループ2は最新のフードテック技術を調査し、多くの海外事例を集めていました。例えばシンガポールのバンバラ豆の取組。「バンバラ豆は植物由来の代替食品として開発されており、植物性代替食品の移行がさらに進めば、懸念される畜産や酪農の温室効果ガス排出を大幅に削減できる。」と発表者は話しました。さらにその栽培方法は土壌や地域の健全性を実現するリジェネラティブ(再生型)農法を用いていることで持続可能な農業慣行であることを強調しました。グループ3では地産地消やカーボンクレジットをテーマとして調査を行いました。その中でも特に、再生農法などの環境にやさしい農業をおこなう農家が評価される、地元が応援する仕組みが必要ではないかと考えました。そこで滋賀県の取組である「びわ湖カーボンクレジット(地産地消のクレジット取引)」に注目しました。現状は農家の参入が圧倒的に少なく、林業分野が中心となっているという話を聞き、農業におけるカーボンクレジットの困難性を参加者同士で話し合いました。

参加者が発表した「カーボンクレジット」

この発表を受けて、東近江市で有効な取組を考えるワークショップを行いました。ファシリテーターの田口真太郎さんからは「新しいアイデアは既存のアイデアの組み合わせから生まれるので、調べたものや他のグループの発表から多くのヒントを得てみましょう。」というアドバイスを受けました。グループ1は環境に優しい有機農業を東近江市でさらに推進していくために、さまざまな課題に注目していました。解決につながる取組を探りたいとのことです。グループ2はフードテックから着想を得て、環境に優しい農法で作られた野菜などのトレーディングカードを作るというアイデアを出していました。「トレーディングカードを通して消費者が東近江市でのCO₂ネットゼロに関する取組を知ってもらうことが目的です」と参加者の1人が話しました。グループ3では東近江市にブラジル人労働者が多いことを受け、東近江市でキャッサバを作り地産地消に貢献できる取組、また多文化共生を実現するために「だれんち」を外国人とのコミュニティスペースとして活用したいという話し合いがなされていました。
さらに他のグループのテーマに沿ってアイデアを考える機会を設け、客観的に自分のグループのアイデアを分析、さらに他者からのアドバイスで新たな発見をすることができました。

ワークショップの様子

DAY4に向けてグループのアイデアを企画書にまとめ、より具体的な提案に仕上げていきます。東近江市のCO₂ネットゼロに貢献するような取組提案ができることを期待したいと思います。

ご協力していただいた方々、ありがとうございました!

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