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【三題噺 お題】 ダイエット 仮面 登山 【タイトル ポーカーフェイス】

その日も地下鉄に揺られていた。つり革をつかみながら、珍しいタイトルのポスターを見かけた。
最新ダイエット!「仮面で登山でダイエット!」芸能人の〇〇さんも、オススメ!小さな字で(かも)。と、書かれていた。そりゃあ、誰もそんなイベント企画しないわなあ……。珍しいわけだ。と、呆れてながめていた。
色々な推測が頭に浮かんだ。
仮面をつけて、登山するのだろうか?なんのひねりもないが?とか、それって危なくないか?とか、色々考えているうちに、段々とそのポスターの企画が面白そうに思えてくるのだった。まぁ、登山は嫌いではなかったので、試しに参加してみることにした。

「仮面で登山でダイエット!」当日。二十人ほどの人がいろいろな仮面をつけて集まっていた。
「それ、お面ですよね?」と、ツッコミをいれたくなるような人もいた。
その中に、ただ一人どこからどう見ても仮面を身に着けていない、スーツを着た男性がいた。
主催者らしき人が、彼に声をかけた。
「あのー。参加者の方ですよね?」
「あ。はい」彼は眉一つ動かさない。
「仮面をつけてという条件なのですが」
「着けていますよ。皆さんも、毎日着けられていると思うのですが?」
「え?もしかして。そういった意味あいですか?」
「はい。ポーカーフェイスですが、これは仮面とはいえませんか?」
「いえ、失礼いたしました。とっても素敵な仮面です」やはり、彼は眉一つ動かさない。

 何事もなかったかのように、その登山は始まった。そして日が暮れる頃には問題なく無事に終わった。
皆がつかれていたかどうかは、見た目ではあまりわからなかった。ただ一人を除いて。
参加者の中で、例の彼だけは疲労の色がみてとれたが、やはり眉一つ動かさない。

今回は、登山というよりも、ある種の修行であったような気がしてきた。

登山というよりはトレッキングであったが、確かに汗をかいて、少しはダイエットになっただろう。
それに、仮面のせいで足元が見えずに冷や汗もかいたし。
結構楽しませていただいた、珍しい週末のイベントも終わり、その日の夜はぐっすりと眠ることができた。


休み明けの月曜日、朝から地下鉄に揺られている。
なんの気無しに、地下鉄の車両の中を見回してみた。あのポスターは違うものに差し替わっていた。

一瞬自分の目を疑う。
スーツを着た男性全員が、例の彼に見えた。




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