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#北欧をまなざす vol.2 〜あなたにとって、給食はどんな時間でしたか?〜

Moi! (こんにちは!)#北欧をまなざす ライター・ひかるです。

先週末に夏至を迎え、フィンランド南部地方では日は沈むものの夜でも明るい日々が続いています。
こちらは夏至の前日6月21日の23:30頃の様子です。
多くのフィンランド人の知り合いが「今が一年で一番最高な季節!」と言っています。


シリーズ #北欧をまなざす は、「私から見たフィンランドのリアル」をお届けして北欧やフィンランドに対してよく言われている「よい」というイメージや事実をまなざすきっかけを作ります。

「まなざす」とは、「目の前に広がる多様な世界への理解をより深めるために、様々な角度から見つめること」をさします。

第2弾では、私のボランティア先の先生のお話と、先日参加したオンラインイベントでのお話という2つのきっかけをもとに、「給食」「対話」という2つのトピックについて前編後編に分けてお伝えします。

これらを通してお伝えできるのは、あるトピックに関する網羅的な紹介ではなく、私とその周りにいる人の経験を元にまなざした「フィンランド教育の姿」と「日本教育の姿」です。 


今回は、前編「給食」についてです。
フィンランドの給食というと、世界で初めて学校給食を無料で提供したことがよく知られています。
生徒にとって給食は「学校でもらえるもの」と思われているようです。

そしてもちろん、それ以外にも日本と異なる点があります。
給食制度に潜んでいるたくさんの「当たり前」が構築された背景をまなざします。


1. きっかけ①先生と話した「フィンランドと日本の教育」

私のボランティア先の先生が受け持つ8年生の英語の授業で、校内に貼り付けたQRコードを生徒がスマートフォンで読み取り、表示されたクイズに答えるアクティビティを行いました。

そしてこれがきっかけで、この授業後にフィンランドと日本の教育について話すことになりました。

解答を選択する形式で、主に「日本の中学校」の問題を10問出題しました。
(ここでは、私も通っていた公立の中学校を例として取り上げます。)
正確な生徒の正答率は測ることはできていませんが、だいたい5~6割でした。



2. きっかけ②オンラインイベント「フィンランド教育から未来の教育を考える」

5月24日に、私の所属しているオンラインコミュニティ・Moi Moi House主催で「フィンランド教育から未来の教育を考える」というオンラインイベントを行いました。

このイベントは「フィンランド教育」という一つの見方をシェアすることで明日からの学びや授業実践などに繋げることを目的としていました。

当日はフィンランド教育に精通しているニーロ・ケルビネンさんをゲストスピーカーとしてお招きして、私がボランティアをしている学校のオンライン中継を行ったり、参加者の気になる疑問をニーロさんに解説していただいたりしました。



では、ここから、この2つのきっかけなどをもとに、今回は「給食」をまなざします。

あなたにとって、給食はどんな時間でしたか?
どこで誰と、どのように給食の時間を過ごしていましたか?

そんなことを考えながら読み進めていただけると幸いです。
そのイメージには、きっと、無意識に受け入れていた「当たり前」が数多く存在します。


3. 「食べる場所」から見る給食

日本では自分の教室で給食を食べるのが一般的である一方、フィンランドではカフェテリアと呼ばれるスペースで給食を食べます。

ここでは、クラスを問わずに好きな友達と一緒に好きな席に座り、それぞれのタイミングで食べ始めます。

私のボランティア先の学校は0年生※から高校生までが同じ校舎にいる大きな学校です。
流石に一度に全員が同じ場所では食べられないので、給食の時間はずらされてはいますが、他学年、他クラス、いろいろな先生たちが同じ場所でご飯を食べるという 空間になります。

※0年生・・・エスカリと呼ばれる就学前教育を受ける6歳児。フィンランドでは7歳児から学校に通い始める一方で、入学前の6歳児に対しては就学前教育が無料で提供される。

私が7年生の生徒と一緒に給食を食べていた時、たまたま通りかかった先生も一緒に給食を食べることになりました。
聞いてみると、彼女らが1年生だった時の担任の先生だったそうです。
徐々に他の7年生の生徒も加わりながら先生を囲み、とてもワイワイした給食の時間を過ごしていました。

カフェテリアはこのような交流を生むことのできる、オープンで空間になっているのだと実感した出来事でした。


一方で、日本では各自の教室で給食を食べます。
決められた席で、同じクラスメイトと一人の担任の先生が、同じタイミングで一緒にご飯を食べます。

フィンランドと比べて日本の学校は「クラス」の連帯感や重要性が強いと感じています。
フィンランドでもクラスごとに授業を受けていますが、クラスの役割や編成のされが日本と異なる部分も多く、日本ほどクラスのつながりは強くありません。

日本では給食の時間も「クラスで過ごす時間」であると捉えられます。


「食べる」がどんな場所で行われるのか、空間としてどう設計されているのかによって、給食の時間が生徒や先生にとってどんな時間になるのかが大きく変わってくるのではないかと考えました。



4. 「食べる形式」から見る給食

「どのように給食が準備されるのか、それをどのように生徒が手にするのか」をとっても、日本とフィンランドでは大きな違いがあります。

フィンランドはビュッフェ形式で、生徒は用意されている給食を好きな量だけよそいます。
給食を用意する担当の職員さんが、そこまでの準備を行います。

※GLUTEENITON・・・グルテンフリー用メニュー
※KASVIS・・・ベジタリアン用メニュー(これらは毎日提供されています。)


一方日本の学校では、生徒が給食当番として、給食室からワゴンで給食を教室に運び、配膳や後片付けまでの活動を行います。
フィンランドでは職員さんが準備することを、日本では生徒も行なっていることになります。

これは給食に限らず掃除も同じで、フィンランドでは掃除も生徒ではなく職員さんがしています。


これらの違いは、日本とフィンランドで学校が担う役割が大きく異なることから生じている考えています。

一方で、フィンランドの学校教育では知育がメインとなっており、徳育や体育も行われるものの、家庭や教会、スポーツクラブなど別の機関が行うことを前提としているために日本ほど重点的には行っていません。

生徒自身が給食の準備をしたり毎日20分ほどの時間を割いて掃除をしたりするのは、知育に特化した学校では当たり前とされないのです。


フィンランドの先生に「日本では生徒が学校を掃除していたよ」と言うと、「フィンランドの学校もそうしたい!自分たちが使った場所は自分たちで綺麗にする、という基本的なことを徹底するべきだ」と彼女は言いました。

学校の持つ役割によって「給食」や「掃除」という行動がどう位置づけられるのかが異なり、それによって多くの当たり前が構築されていることを感じました。


5. 「食育」から見る給食

最後に給食を通した食育について紹介します。
オンラインイベントで、このような話がありました。

参加者の方:「フィンランドでは食育は行われていますか?」
ニーロさん:「行われています。栄養に関しては栄養トライアングルを用いて教育されています。また、フィンランドでは『残さず食べよう』というよりは『食べられる量を考えて食べよう』という教育をします。お腹を壊してしまっては本末転倒です。」

確かに、私のボランティア先の学校でも食べ残しがとても多いです。
お皿を片付ける場所に残菜を入れる場所もあるのですが、そこにどんどん食べ物が捨てられていきます。

「残飯ゼロが素晴らしい!残すのはもったいない!」という日本の給食教育で育ってきた私にとって、これは毎日モヤモヤする出来事でした。

その背景に「自分が食べられる量を考えて食べよう」という、自分の健康を維持するための教育があったことをここで初めて知りました。

最近は日本でも給食を無理矢理すべて食べさせる教育は以前に比べて減ってきた、というニュースを見かけたことがあります。
でも、それ自体が「もったいない」「食べ物を大切に」という考えを否定するようなものではないとも私は考えます。

また、フィンランドの先生たちも、食べ残しは問題だという問題意識を持っています。

「食べ物を大切にする力」と「自分の健康を自分で維持する力」のどちらかではなくてどちらも選択できるあり方を、日本とフィンランドそれぞれが目指しているようにも捉えられました。



6. おわりに

今回は、「給食」を通して、私とその周りにいる人の経験を元にしてまなざした「フィンランド教育の姿」をお届けしました。

1日のうちたった数十分の給食ですが、1日が9年間も積み上がると、とても大きな「当たり前」になります。
給食という切り口から、フィンランド教育で当たり前とされているものがいくつか浮かび上がってきました。


私にとって給食は、「自分が給食当番の時はどこかせわしなく時間に追われた気分になり、給食を食べている時は放送委員がかける流行りの音楽を聴きながら近くの席の子と談笑し、席替えをすると給食の時間に話す子も話題も変わって…」というような時間でした。

そのイメージの中にもたくさんの「当たり前」が存在します。
そして、その「当たり前」を形成した背景に目を向けることで見える日本教育の姿もあり、「当たり前」の積み重なりで自分の時間が築き上げられていることも実感します。

無意識に受け入れている「当たり前」に少し意識を向けてみると、自分の見える世界がより深く、多角的で豊かなものになります。


あなたにとって、給食はどんな時間でしたか?





次回 vol.3 では「対話」について、お伝えします。
対話型教育が「よい」ものとして注目されている中で実際に対話がどのような役割を果たしているのか、その「よい」面だけではなく現場に苦悩などはないのか、という姿勢で「対話」をまなざします。

こちらも、どうぞご覧ください!



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