駆け出し百人一首(41)憂きも契りつらきも契りよしさらば皆あはれにや思ひなさまし(永福門院)

憂(う)きも契(ちぎ)り つらきも契(ちぎ)り よしさらば 皆(みな)あはれにや 思(おも)ひなさまし(永福門院)

『風雅和歌集』恋三、1154番

我が身の憂さを嘆くのも、あなたの薄情さに苦しむのも、全てはあなたとの恋から生まれたこと。よし、それなら、全ての感情を恋の醍醐味だと考えてみようかしら。


I feel sad because of our love. You hurt me because of our love, too. Well then, I'll determine to regard all my feelings as my precious memory with you , but may not be able to.

熱心なアプローチを受け入れて関係を結んだとしても、幸せいっぱいのバラ色な時期はそれほど長くは続かないものです。
なかなか逢えずにいると、寂しさな不安、疑念で胸が苦しくなります。こんな思いをするなら、あの人と恋なんてしなければ良かった、と後悔することもあるでしょう。
しかし、永福門院はそこから一歩踏み込みました。
苦しいけれど、恨めしいけれど、それも、あの人と縁を結んだからこそ、の心情である。であれば、その感情をしみじみと味わおうではないか、と。
類型的な恋の和歌の枠組みを超えていて、興味深い和歌です。

古典文法

さらば:ラ変「然り」の未然形+接続助詞「ば」。仮定条件。もしそうならば。
あはれに“や”おもひなさ“まし”:この「まし」は、一人称の文脈かつ疑問の部分なので「ためらいの意志」の意味で訳す。〜しようかしら。

古文単語

契り:約束。男女間の愛の誓いのことも指し、男女の仲を意味する語に。
つらき:「自分がつらい」という意味だけでなく、「相手が薄情だ、冷淡だ」という意味も表せる。ここでは特に我が身のつらさをいう「憂し」と対比になっている。
あはれに:「あはれなり」はしみじみした情感を幅広く表す語で、文脈によって訳を工夫する。
思ひなさ:「見なす」の「思ふ」版。〜だと捉える。

読み方(ローマ字)

Uki mo chigiri
tsurasa mo chigiri
yoshi saraba
mina aware ni ya
omoinasa mashi

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