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哀れなるものたちなのは

幸いなことに軽傷で済んだが母が交通事故に遭ったので病院に連れていくために有給を取ったその午後、ようやく『哀れなるものたち』を見に行くことができた。その日は朝からアカデミー賞の授賞式が行われていて、WOWOWの生中継を私は母と一緒に見ていた。『哀れなるものたち』がちょうど美術賞など3部門一気にかっさらったのを見て、見るなら今日だ、と思った。(例の人種差別?なシーンはちょうど病院に行っていて見れなかったし見てなくて良かった)

原作を読んでから映画を見ようと思っていたけれど全然読み進まなくて結局、ほとんど読めていないまま映画館へ行った。映画館はがら空きだった。

すでに見終わった人らがXで感想をポストしているのを見るにフェミニズムを主題とした映画であるような印象を持っていたけれど、実際に見終わってみると、私はあまりそうは思わなかった。私自身あまりフェミニズムの解像度が高くないからかもしれないですが。

以下にネタバレ含んだ感想を書きます。

赤子の脳を持った成人女性が(といっても作中ではベラに移植された脳の性別に触れられていないので女性と表現してよいか難しいが)、旅によって世界や社会の仕組みを知り、読書で知識を得て、アイデンティティを獲得していく成長冒険譚という感じだけど、それってなんか、ドラゴンボールで悟空がブルマたちと出会って仲間を知り、チチと家族を作ったりなどして戦闘民族ながらに”ふつうの人間たち”の生活に溶け込んでいく様とも重なる部分があるなと思った。で、もし女悟空を描くならフェミニズム的な視点からも面白く見れた方が良いよね、というような、あくまでも一要素として取り入れてる感があったように思った。

『哀れなるものたち』では、外見が美しい女性の身体に赤子の脳を移植された”歪な存在”であるベラが、生きていく上で様々な人間の支配を受けたり、恩恵を受けたりする。ベラはその時の自分にとって必要な恩恵は受けつつも、その必要がなくなれば別の人、別の場所へと自分の好奇心のまま冒険を続ける。たしかに、ベラが無知であることを利用して自分の支配下に留めようとする男性が複数人登場したり、働いたこともなく社会のことすらよく分からないベラが一歩目に出会う仕事が娼館での売春で、金銭的に搾取されながら客を選ぶこともできないとか、ベラが若くて無垢で、かつ女性の肉体を持っていたことで起こる出来事がたくさん描かれてはいるものの、やっぱりそれはたくさんの要素のうちの一つであって、主題ではなかったと思う。

『哀れなるものたち』の原題は『POOR THINGS』、私は男性たちだけでなくベラも含めた登場人物みんながそれぞれが多種多様に”poor”だったように思う。
死にたかったのにマッドサイエンティストに運悪く(悪いか分からないけど良くもないような)改造されてしまったベラも、自らも親に改造され変人扱いされ苦しんできた挙句ベラを生み出したゴドウィンも、精神的には幼児であるベラに恋をして突然現れた下品な輩と駆け落ちされようとも待ち続けるマックスも、飢餓に苦しむ貧民の生活を豪華客船で読書をしながら高みの見物する奴らも、それらを映画にする監督も、それを娯楽として楽しむ私も、みーんな"poor"。みんなpoorなのだから、poorなりに不当な抑圧を受けることなく生きていけたらいい。抑圧や支配であることに気付ける知性と感性を持って、ベラのように自由に生きていけたらいい。

とっても面白い映画だった!エマ・ストーン大好きだよ。

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