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社会変革はどう起きるのか?(インクルーシブデザインワークショップ参加メモ)

2024年2月の6日間、会社を休んでインクルーシブデザインのワークショップに参加してきました。
自分はこれまで色んなワークショップに参加してきましたが、これほどまでに社会が変わっていく感を感じられたWSには参加したことなくて衝撃的だったので、どういうWSだったのか、そこからどういう学びを得たかを記録します。


このワークショップについて

伊藤慎一郎さんと、ライラ・カセムさんをプログラムディレクターとして、渋谷のCCBTで開催されました。(伊藤さんは、自分の大学院時代の先輩)
選考を通過した20名ほどのメンバーが5チームに分かれて、デザインパートナーである5つの障害者支援施設の方々とともに、各施設の課題を解決するツールやアイデアを提案するといったワークショップでした。(詳細は以下のリンク)

インクルーシブデザインとは何か?

そもそもインクルーシブデザインとは何か。講義の中でライラさんが伝えてくれた定義がしっくりきました。

当事者が持ってる課題や可能性を出発点により多くの人にささる包括的なアイデアを一緒に作るデザイン

この定義の中でも「一緒に」というところが重要だと思っていて、ユニバーサルデザインとの違いはこの箇所だと認識しています。つまり最終成果物はユニバーサルデザインと近いものもあるかもしれないが、プロセスが違うということだと理解してます。

また、ワークショップの中でインクルーシブデザインの第一人者のジュリア・カセムさんの話もあったのですが、その中で

エクストリームを知ることで、メインストリームのための革新になる

という言葉が紹介されていました。目の見えない人のために開発されたタイプライターや、入院患者のために作られたウォシュレットのように、エクストリームの方の課題解決が多くの人のためのものになるというのは、周りを見渡すと実感できるなと感じました。(ジュリアさんの話の詳細は以下リンク)


やったこと

では具体的にワークショップでは何をやったのかについて、軽く触れたいと思います。
自分はアトリエ福花さんを施設のデザインパートナーとして、イラストレーター、建築家、デザイナー(自分)の3人のメンバーと共にワークを進めていきました。
1日目2日目は、アトリエ福花さんに実際に訪問して、障がいを持つ方々と触れ合いながら職員さんなどに現場の課題を聞いたり、施設での気づきを共有したりしました。

2日目の終わりから3, 4, 5日目にかけて、現場での気づきを踏まえてデザインパートナーの方とアイデアを考え、話しながらプロトタイプを作っていきました。

6日目は、5日目までに作ったもの実演しながら、プレゼンしました。自分たちのチームは、

  • 多様な人が共存する空間の中で、それぞれの快適な居場所づくりができる『コンテナボックス』

  • 話しかけたいメンバーと、作業に集中したいスタッフのコミュニケーションをゆるっと解決する『あとでねくん』

  • スタッフが一人のメンバーにつきっきりになってしまう問題を解決する『わかめねこ』

の3つのプロダクトを作り、最終発表ではベストプレゼンテーション賞をいただきました🥳

他のチームも、それぞれの施設と並走して作り上げた素晴らしい成果物+プレゼンがされていました。(詳細は以下)


3つの学び

ここからは、このワークショップの中で得た学びについて記載します。

デザインプロセスにエクストリームな方々が入る重要性

一般的なデザインプロセスと違い、インクルーシブなデザインプロセスは最初から最後までエクストリームな環境のパートナーと一緒に歩んでいきます。

通常だと最初に当事者から課題を抽出して、そのあとはデザインメンバーでその課題をもとに制作後、最後に当事者に評価してもらうため、ニーズとソリューションがいつの間にかずれてしまっていることはあると思います。当事者は最後に評価という形でプロダクトに接するのですが、根本からソリューションを考え直す必要がある場合でも、もう時間的に手戻りはできない状態になってしまっているということはあるかと思います。
一方で、インクルーシブデザインプロセスは、当事者がずっとそばで一緒にいるので、そういったニーズを取りこぼすということは少なく、的を得たプロダクト作りとして合理的だと深く実感できました。


多様性の重要さと難しさ(デザインプロフェッショナルの存在意義)

通常のデザインプロセスの場合はデザイナーのみで考えたりする場合が多いので、インクルーシブデザインプロセスでは多様性がかなり上がります。そのため、アイデアの粒度や質も含めて拡散度合いは上がるかなと思います。多種多様なアイデアが出ていい一方で、ではそれをどうまとめるかというところでは難易度がとても上がるなと感じました。

今回の自分たちのチームは、たまたまうまく収束できたかなと思うのですが、他のチームを見ていると多様性が高いチームのほど、どうアイデアを形にしていくかというところで苦労している様子が見られました。
個人的な印象ですが、収束に関してはデザイナーという行為者(※)が生きるポイントかなと思いました。言語空間で議論された様々なアイデアに対して、どういう切り口で面白さを見つけ、形として落とし込み、アイデアをジャンプさせるか。インクルーシブデザインプロセスでは、多様性が高い分、そういったデザインのプロフェッショナル性がより試されると感じました。
(※デザイナーという職能でなくても、「デザイン行為者としての態度・姿勢・技能」を持った方)


このワークショップそのものの価値の大きさ

今回このワークショップに参加して自分が一番衝撃を受けたのは、ワークショップの中身やここで生まれたものというより、このワークショップそのものの価値についてでした。
今回、施設の見学や話を聞く中で感じたのが、施設の方々は日常がその中で完結しているため閉塞感があり、なかなか他の施設との繋がりも作りづらそうな点でした。一つの施設の中では解決できない課題に対して、他の施設が解決策を持っていたりしてもそこに繋がりがないと気づくことができません。
このワークショップ、ひいてはライラさんたちがこれまでやられてきたシブヤフォントなどの活動は、そういった①施設同士の横のつながりや、②施設と施設外の人の繋がりを生み出す素晴らしい取り組みだと感じました。

シブヤフォントやこのワークショップの『点』としての取り組みがいくつか連続して実施される中で、『線』そして『面』としての繋がりができていき、福祉業界や社会が大きく変わっていく流れが作られていくのだということを理解しました。
むしろその大きなうねりはすでに動き出していて、その途中経過としてのワークショップに自分は参加できたのではないかなという印象を受けました。

あとがき

自分は実は10年ほど前にもインクルーシブデザインのワークショップに参加していて(大学時代に平井先生の授業にて)、その時はうまく課題抽出とソリューションへの繋ぎこみができず、プロダクトの押し付けになってしまった印象がありました。今回は、その時よりは多少インサイトがうまく汲み取ってデザインパートナーさんと並走しながらソリューションに繋げられたかなと思います。

また、ディレクターや講師の方々も言ってたのが、このワークショップでの成果より、今後施設などと繋がっていくことが大事だという話だったので、今後何かしらで繋がっていくアクションが取れたらいいなと思いました。



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