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ロシアの対北朝鮮外交スタンス~ロシア特任大使がインタビューで明かす「朝鮮半島の核リスクの高まり」


【画像① 北朝鮮のミサイル戦力は「六か国協議」がされていた頃とは比較にならないほど、強化されているように見える。特にここ3年の間の開発は目を見張らせるものがあり、発射実験でも特殊な弾道を描いて迎撃困難なものまで実用化していることを窺わせる。人民の飢餓・貧困と裏腹な奇形軍事大国である。】


◆ロシアの急速な北朝鮮接近の背景は「ウクライナ戦争での弾薬不足」だけではない



ここのところ、「インテリジェンス・ウェポン」ではロシアと北朝鮮の急速な接近、首脳会談や国家間の協力関係の構築について、ロシアその他から入る情報をもとに取り上げてきた。つい先ごろも電撃的なラブロフ外相による訪朝と「金正恩」総書記らとの会談を伝えたが、実はこうした一連の動きの背景にあるロシアの北朝鮮及び朝鮮半島情勢に対する評価と取り組みの方向性について、ロシア外務省の特任大使(巡回大使とも言い、国を特定せず特定の問題について関係国との間の折衝などをロシアを代表して行う役割を持つ)であるオレグ・ブルミストロフ氏が語っていた。

リア・ノーボスチ通信はラブロフ外相の訪朝に先立つ10月15日に配信していたので、そのインタビューの概訳を掲載する。北朝鮮の核問題については、「六か国協議」の枠組みでロシアや中国、米国と共に日本も話し合いに参加していたが、このスキームが機能中断して久しい。ロシアは、ウクライナでの戦いを首尾よく終わらせるために北朝鮮の協力を得ることにとどまらず、北東アジア情勢の安全保障バランスを維持することに積極的なイニシアチブをとるためにも、北朝鮮との折衝を始めたということが読み取れそうだ。

以下、リア・ノーボスチ通信の配信記事(10月15日付)の概訳を掲載する。


【画像② 「祖国解放戦争(朝鮮戦争)勝利70周年記念軍事パレード」において閲兵台上で交歓する「金正恩」総書記(右)とロシアのショイグ国防相。ショイグ氏への厚遇ぶりが目立ち、北朝鮮が対ロシア関係重視を明確に打ち出すパフォーマンスともなった。】


<朝鮮半島における核リスクが増大している>


朝鮮半島情勢は悪化し、北朝鮮は核戦力の強化に動く一方、アメリカ、日本、韓国は大規模演習を計画している。今月のセルゲイ・ラヴロフ外相の北朝鮮訪問を前に、オレグ・ブルミストロフ特任大使はリアノーボスチ通信とのインタビューに応じ、朝鮮半島における核紛争のリスクが高まる中で、問題の解決は可能なのか、北朝鮮と中国との同盟を第三国に向けない理由は何なのかなどについて語った。

問① 朝鮮半島における状況の進展をどのように見ておられますか?現在世界で進行している地政学的変化の中で、朝鮮半島問題解決のための露中のイニシアティブは、有効なものなのでしょうか?


【画像③ ロシア外務省のオレグ・ブルミストロフ特任大使】

<北朝鮮の核戦力強化は米・韓・日の攻撃的な軍事デモンストレーションの増大への対応>


答① 朝鮮半島情勢は、軍事的及び政治的緊張の高まりに向けて、悪化しています。主な原因は、アメリカと韓国による軍事活動の増大です。北朝鮮の核ミサイルの「脅威」を抑止するという口実の下、大規模な共同軍事演習が密なテンポで行われています。それには日本も参加しており、北朝鮮に対する「斬首攻撃(decapitation strike)」(北朝鮮指導者の殺害を中心に据えた作戦プラン)のシナリオが行われています。北朝鮮側は、そのような攻撃的な行動に対して、自国の核戦力の強化によって国家主権を守るための措置をとることを余儀なくされています。そのような状況下で、交渉プロセスは行き詰っています。残念ながら、現段階で行き詰まりを打破する見通しは立っていません。

露中のイニシアティブにはロードマップと朝鮮半島問題の包括的解決の行動プランが含まれており、また国連安保理の政治人道的解決をめざす決議案もありますが、その有効性は失われていません。交渉プロセスの再開に求められる相互の信頼感の復活と緊張緩和を目指したものです。そこには、北東アジアにおける不可分の安全保障の包括的体制を構築するための、具体的な段階的措置が書かれています。しかし露中の提案はアメリカによって拒否されました。アメリカと韓国は、制裁と圧力によって、北朝鮮に経済支援と引き換えに核兵器を放棄させようとしています。安全保障分野における北朝鮮の正当な懸念を考慮しようとする文言は一切含まれていません。朝鮮半島の核問題解決のためのホワイトハウスの過去の行動を振り返ってみれば、アメリカと韓国は、そのような方向性が可能性を欠いたものであり、対立の激化というスパイラルと軍拡競争につながるものであることを理解できたはずです。しかしまさにそれが、北朝鮮に対立する国々の真の狙いでもあるわけです。


【画像④ 新型コロナウイルス感染拡大などのため4年間中断した米韓合同演習は、昨年秋から再開され、ほぼ通年でなにかしらの共同行動が実施されている。北朝鮮側はその都度、「金正恩」氏の実妹で朝鮮労働党組織指導部第1副部長の金与正氏の名で口を極めた悪罵を韓国、米国に投げつけている。】


<核戦争がいつ始まるかが問題~朝鮮半島の核戦争は不可避なのか?>


問② 北朝鮮の国防大臣は最近、「朝鮮半島で核戦争が始まるかどうかではなく、いつそれが始まるのかが問題だ」と述べていますが、核紛争が勃発する恐れがあるとお考えですか?

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