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映画『福田村事件』関東大震災から100年。今語られる真実とは!?

今回はkayserが紹介します。
関東大震災から100年目となる今年2023年。歴史の中に隠されてしまった事件を描いた映画『福田村事件』が公開されました。これまで語られることなく隠されてきたひとつの真実。ドキュメンタリー映画の鬼才・森達也監督が自身初となる劇映画という形でメガホンを取ることに。今回は、今最も話題の問題作『福田村事件』を紹介します。

『福田村事件』とは

1923年9月1日。関東を中心とする大地震が発生しました。関東大震災です。死者・行方不明者合わせて10万人を超え、社会的にも経済的にも大きな影響を与えことでも知られています。

この震災に乗じて、自警団が結成され、多くの朝鮮人や社会主義者が殺されました。映画『福田村事件』は、この震災直後に千葉県東葛飾群福田村で実際に起きた殺人事件を題材に描かれた作品です。

これまで語れることのなかったこの悲劇をドキュメンタリー映画監督として知られる森達也が映画化。自身初となる劇映画という形で世に送り出されることになりました。

「福田村事件」は、千葉県の福田村を舞台とした事件です。関東大震災から5日後。香川から来た薬売りの一行が、讃岐弁であることから朝鮮人に疑われます。震災後に結成した自衛団が、彼らの身の証明を確認する間に、殺してしまうという悲劇の出来事です。

この実話をもとに映画化しようとしていた荒井晴彦森達也の偶然の出会いから、本企画がスタートします。劇映画の大ベテランとドキュメンタリー界の鬼才がタッグと組み、新たな名作生み出しました。

資金集めとしてクラウドファンディングを利用し、異例の3500万円を集めたことでも話題に。映画の最後に流れるエンドクレジットには、協賛した方々の名前が紹介されています。

2023年9月1日に公開されると、クラウドファンディング同様に多くの映画ファンが劇場に押し寄せ、ミニシアター公開ながら大ヒットを記録しています。映画パンフレットも即日完売。観客の本作に対する関心度が窺えます。

100年前の実話から生まれた本作。
この事実を知った現代に生きる私たちに、何を問いかけているのでしょうか。

森達也初の劇映画

ドキュメンタリー作家として知られている森達也監督。地下鉄サリン事件発生後、オウム真理教信者を追ったドキュメンタリー映画『A』はあまりにも有名です。

ベルリン国際映画祭など海外映画祭などに招待され、世界的にも話題となりました。その後も『A2』、『311』、『FAKE』、『i-新聞記者ドキュメント-』などのドキュメンタリー映画を次々に発表しています。

そんな森達也監督が、意外なことに自身初となる劇映画に挑戦。しかも、あの荒井晴彦井上淳一、佐伯俊道などといったベテラン陣と組んで、『福田村事件』を監督するということで、公開前から非常に注目されていました。

これだけのスタッフが揃って面白くないわけがありません。クラウドファンディングでの異例の協賛金も、そんな期待値の高さからきているのでしょう。

森監督もインタビューで語っていましたが、多くの人が思うほど、ドキュメンタリーと劇映画に大きな違いはありません。いずれにしても、映像素材を使って、語っていく・紡いでいくという手法は同じです。ドキュメンタリーでも劇映画でも重要なのは、「どう語っていくか」つまりシナリオが大事だということ。

ただ、ひとつ大きな違いを述べるとしたら、演じ手に演出をつけるということでしょうか。それも実力のある演者が揃えば、自ずと成立していきます。

本作は、題材、スタッフィング、キャスティングなどすべての要素が出会うべくして出会った奇跡の産物といっても過言でありません。こういう作品は、ヒットも生み出すと同時に、歴史に残る作品となっていくことでしょう。

事件をみつめる視点や映画的な物語

森達也というドキュメンタリー映画の鬼才が劇映画を監督という話題性もさることながら、やはり脚本など多くの劇映画スタッフに支えられていることは言うまでもありません。森監督だけでは、足りない映画的な表現といったところもあるはずです。

本作で注目すべきは、その構成力の秀逸さ「福田村事件」といった実話を描くわけですが、その事実を語るということにおいて、被害者はもちろん加害者側も描かなくてはなりません。加えて、本作では澤田夫妻という事件とは関係しない人物たちが物語のひとつの構成部分を担っています。

このように、さまざまな視点から事件を描くことで、より明確に冷静に事件をみつめることができます。特に澤田夫妻を登場させることは、観客の視点に近くなります。

そして、夫妻の関係性もまた作品としてみたときに、より映画的な物語に。この辺のシナリオは、森監督だけでは果たせなかったのではないかと。

また本作は実話をもとに描いていますが、あくまでも劇映画でありフィクションだということが重要です。もし、事実だけを語っていくのであれば、森監督がいつものようにドキュメンタリー映画にすればいいわけで、そうでないということに意味があります。

観客は森達也作品だからといって見誤ることなく、フィクションとして受け止め、その上でこの作品について考えていけたらいいのかなと思います。

この上ないキャスティング

見事なスタッフィングだけなく、本作の魅力の多くは出演者によるものです。主演の夫婦を演じた井浦新や田中麗奈、行商のリーダーを演じた永山瑛太、利根川の船頭を演じた東出昌大、未亡人を演じた元水曜日のカンパネラ初代ボーカルのコムアイ、女性新聞記者を演じた木竜麻生

そのほか、柄本明、ピエール瀧、水道橋博士、豊原功補など日本映画界にはなくてはならない魅力的な俳優陣が揃いました。

特に東出昌大は、森達也が劇映画を監督すると聞きつけて、自ら連絡してきたとのこと。映画『Winny』では、13kg体重を増やしたそうですが、今回は別人のように絞って、筋肉質な体に仕上げています。この東出に限らず、各々がその役柄に合っていて、作品を盛り立てています。

もともと俳優でないコムアイ、水道橋博士、ピエール瀧といったキャストが非常によく生かされているところなど、作品としても味わい深いものになっています。

最大の見せ場

本作でみどころといって紹介するには非常に辛いところではありますが、虐殺シーンはどうしても外せない部分です。120分の映画に対して、この虐殺シーンだけで40分かけています。

本編の3分の1が虐殺シーンです。ドキュメンタリーでは表現しきれないシーンとしても重要なシーンだといえるでしょう。

その後、一行の中で生き残った少年が警察で、殺されてしまった人たちの名前を上げるというシーンへと繋がっていきます。筆者の中では、ここまでが一連のシーンであると思っています。

ラストシーン

ラストシーンを受けて、どう思うか。森監督はどういう意図で、このラストにしたのか。

冒頭に述べた「現代を生きる私たちへの問いかけ」に繋がっているような気がしてなりません。

kayser

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