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『夏休み』

夏の、昼 畳で眠る君 隣で眠る僕 寝返りうつ君の髪が僕の鼻をくすぐり 微かに懐かしい匂いを嗅ぐ 夏と、蚊取り線香の匂い 世界にはしゃいでいた、 夏の幼さを嗅ぐ 夏の、じじの家 #詩

    • 君の先端を切り落とす

      君の先端を切り落とす はらり、髪の毛 パチリ、手の爪 君との接続がなくなった断片は 瞬時に周辺要素と化し 風景の一部になる 具体的、可燃ゴミ ぼくはその断片を愛さなくても 罪にはならないだろうか #詩

      • はじめての、ふうせん

        今日、はじめて見たね。 ふうせん。 ふくらんだときの おどろいた顔。 おかしいね。 ふわふわしてるね。 軽くはじいたときの音と 君の心のはずむ音が 一緒だね。 君の、はじめてにふれる感動を 僕も、分けてもらっているよ。 これは 君にしかできない贈りもの。 #詩

        • 『もう少し、ゆっくり、道を』

          もう少し、ゆっくり、歩いてもいい。 ぼくらは忘れがち。 みんな同じ地球のうえに立っているけど、 行き先がみんな違うということを。 ひとりひとりの名前がついた道を、 もつということを。 目に見えない道の 総和がわたしたちの社会。 たまには交差するかもね。 その時はよろしくね。 #詩

        『夏休み』

          奈良少年刑務所詩集

          人の感性はどう育つのだろうか。 この本は二つの巡り合わせで手に取ることができました。 ひとつは、ぼくが県庁の児童虐待、DVさらには青少年の非行防止・対策をする係にいること。 もうひとつは、最近もっぱら詩に興味が深まっていること。 こういう「今」にいなければ、決して手に取ることはなかったと思います。 さて、この本は殺人、強盗、レイプを含む凶悪犯罪を犯した少年を投獄する奈良少年刑務所における話です。 ここで、彼、彼女らの更生のための「社会性涵養プログラム」が開発されま

          奈良少年刑務所詩集

          『波うち際』

          感情と理性の波うち際に佇んでいたい。 そっと打ち上げられる不揃いな貝殻を 集め、 眺め、 並べ、 また捨てたりしたい。 結局手元にあるものはボロボロになるけどね。 それでも 大切にとっておく。 忘れることもある。 波が攫っていくこともある。 また探す。 次は、まるまった、鈍く光るガラスを探そう。 たぶん、ぼくにしか見つけられないから。 #詩

          『波うち際』

          『カミヒコーキ』

          紙飛行機はおおよそ思うように飛ばないようにできている。 人生もおおよそ思ったようには進まないようにできているだけだろう。 #詩

          『カミヒコーキ』

          『実家』

          もはや使われることのない客室 人がいないことに慣れすぎたソファに身をうずめ 控えめな車の走行音と 小鳥のさえずりと 風が葉を揺らす音が 順に聴こえてくる 隣人が提供してくれる 苔の生えた吹奏楽 「ここだけは変わらないな」 目をつむり 風が運んでくる匂いに包まれていると 感覚だけがあの頃に引きのばされる おや、蝉も鳴きだした #詩

          『実家』

          『青と白と緑、それから黄色』

          青 網膜を染めあげ、まぶたを透過する、空の青 白 輪郭が際立ち、えんぴつの濃淡が残る、雲の白 緑 風は葉が反射する光にリズムをもたらし、 五感を手筈に従って刺激する、生の緑 黄 君がおもむろに取りだしたアメスピ 紫煙がぼくの目を曇らせる、耽溺の黄 それらはたちどころにぼくの感情を洗い流すのに過不足なく、不自然でもない 次第に現れては溶ける煙 感情も煙になって消える ぼくも君も、生きているから感情を吐き出し、風に身を任せ、煙か雲になる 『青と白と緑、それから黄色』

          『青と白と緑、それから黄色』

          『そういう状態なんだ』

          今の、この、 椅子に座り続けるような悩みは 近くで眺めてみても 引いて眺めてみても 我ながら、ばかばかしく、虚しい この椅子はけっこうふわふわだからね けれど、それは確かな切実さを ふわふわ静かに矯正される体の歪みのようなものを 訴えてくる ああ、おそらく わたしは幸せで そしてまた、不幸なんだろう 『そういう状態なんだ』 #詩

          『そういう状態なんだ』