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2. アルマン―原美術館から原美術館ARCへ、そして、由布院

(承前)
初期の原美術館で、一番鮮烈に記憶に残っているのが「ゼロの空間」、そして、美術館の扉を開けるとすぐ右手、チケットカウンターの手前にあったgarbageの入った 透明なアクリルの箱、アルマンの「なまごみ」
原美術館で一番初めに目に入る作品だったせいか、原美術館といえば思い浮かぶ、忘れられないイメージとなった。
いつしか北品川のエントランスからは消えていて、1988年、群馬県渋川市に別館としてオープンした「ハラミュージアムアーク」にあると聞いたけど、常設ではないので、長らく見ることはなかった。その「なまごみ」に、この夏、やっと再会した。

2018年1月6日- 3月11日、3月21日-6月3日の二回に分けて、原美術館がコレクションしてきた50年代以降の作品約1000点のなかから、館長だった原俊夫自身が選びキュレーションするという初の展覧会「原俊夫による原美術館コレクション展」が開催された。7月に原俊夫さんは、原美術館・ハラミュージアムアーク両方の館長を退任し理事長に。まさにそれまでの原美術館の回顧展といえる展覧会、リストを観ると、もうオールスター戦(笑)。「なまごみ」も、久しぶりに北品川に戻っていたらしい。当時は、日本にいなくて、見ることができなかったけれども。

そして、2018年11月、北品川の閉館の発表。
当初は、2020年12月末、「原美術館コレクション」展をもって閉館予定だったけれど、結局、緊急事態宣言発令による休館で、展覧会のスケジュールが大幅にずれこみ、当初、2020年4月~6月に予定されていた「光―呼吸 時をすくう 5 人」を最後に、2021年1月11日、閉館。
40年の歴史に幕を閉じるにあたって、約3か月 予定されていた「原美術館コレクション」展は、本当に残念ながら開催されずに終わった。

「なまごみ」がちょっとしたオブセッションのようになってしまって、アルマンの作品集を眺めたりするうちに、思い立って、彼の盟友のひとり、イヴ・クラインの作品集を取り寄せた。アルマン、パスカルと世界を三分割して 「空と無限性」を手に入れ、IKB(International Klein Blue)という深い青を発明して特許登録もしたイヴ・クライン。アルマンとパスカルがそれぞれ世界の何を取ったのか、文献によって色々な書き方がしてあって、いまだによくわからないのだけど、イブクラインは、空、無限性、何もない空間、空虚(void )を取ったという。

ちょうどそのころ、由布院に行った。旅先で、まったく予想外に、不意打ちのように、アルマンとイブ・クラインに出会うとは。
それは、全くの偶然で、カフェが気持ちよさそうなので行くことにした、由布院御三家のひとつと言われる、山荘 無量塔の敷地内にある「アルテジオ」、音楽にまつわるアートを集めた、とだけで、どんな作品があるのか全く知らなかった小さな美術館で。航空券を購入してしまった後、大分空港から由布院への直通バスが1年以上運休していると知り、急遽、空港からレンタカーを借りることにしたのだけれど、中心から少し外れた山の中にある無量塔は、車じゃなかったら、多分、行かなかっただろう。
アルテジオにあったのは、アルマンの作品群、中でも、ヴァイオリンのフォルムを再構築して単色で塗りこめた連作「イブ・クラインへのオマージュ」
他にも、マン・レイ、ウォーホール、リー・ウーハン、サイ・トゥオンブリー・・・といった作品が並ぶ、山の中の宝石のような美術館だった。

昨今、インバウンド、特に韓国人や中国人に人気だという由布院、そもそもは、外国人観光客もほとんどいなくて静かであろう今、蛍を観に行きたいと思っているうちに、時期を逸したのだけど、2017年10月にオープンしたCOMICO ART MUSEUM YUFUINもあり、行くことにした。COMICOは、隈研吾建築、展示が、村上隆、杉本博司、そして2019年12月に加わった奈良美智の大きな犬 Your Dog だけ、というすがすがしいくらいわかりやすい小さな美術館だった。
本来、1時間のツアー予約制らしけど、今はツアーはなく、人のほとんどいない静かな館内をひとりでゆったりとした時間を過ごせた。韓国資本で、韓国語のガイドツアーもあるらしい。
日本は、地方に意外なほど小さな美術館がたくさんある。由布院もそうで、たとえば、金鱗湖畔のちょっとしゃれたカフェの2階に小さなシャガール美術館があったり、ノーマンロックウェル美術館があったりする。

由布院から帰ってきたら、出発前に注文したイヴ・クラインの作品集が届いていた。

閉館した原美術館は、ハラミュージアムアークに統合され、2021年4月に、原美術館ARCとしてリニューアルオープン、その幕開けとなった「虹をかける:原美術館/原六郎コレクション」は、北品川の最後の無念をはらすものだろうか。
そして、由布院での出会いが、前奏曲となったように、同じ月に、そこで、何十年かぶりに再会した「なまごみ」は、薄暗い觀海庵で、杉本博司のモノクロの海景や、マークロスコの赤や、狩野派の雲龍図などに囲まれてボウっと光る、幻想的な佇まいだった。

昔、40年近く前には、これを見るたびに、サリンジャーのNine StoriesFor Esmé—with Love and Squalor のことを考えたものだった。ちょっと的外れなんだけれど。

Squalorを、野崎孝さんは「汚辱」と、柴田元幸さんは「悲惨」と訳している。
Squalor:
(OXFORD Dictionary)
The state of being extremely dirty and unpleasant, especially as a result of poverty or neglect 
Origi:Early 17th century from Latin, from squalere ‘be dirty’.

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