★魔物の定義は何か。君に問う。

 いつから魔物が存在し始めたのか、それは誰にもわからない。魔物は全ての生き物を見境なく殺していく。人間、動物、植物。そして、山や川といった自然も破壊していった。これには人間も困っていた。

 そして、時が流れ、一つの小さな命が立ち上がった。彼はそれらの生き物を「魔物」と呼んだ。

 彼は色んなものたちに声をかけた。「魔物を倒そう」と。しかし、言語も違う、容姿も違う、考え方も違うものたちに、説得するのは難しかった。
「無駄」「関わりたくない」と、言葉はわからなくても、態度で伝わった。それでも、彼はあきらめなかった。なぜなら、魔物はこうしている間にも、数を増やし、仲間を、動物を、植物を殺している。しかし、自分だけでは魔物と戦うことはできない。
 ――みんなで戦おう。彼は一生懸命仲間を探した。

 時が流れ、少しずつ理解・協力してくれる仲間は増えていった。彼は自分の残された寿命が短いこともあって、今いる仲間で一匹一匹確実に魔物と戦い始めた。魔物は、火を吹くものもいたり、頑丈な皮膚で守られていたり、と多種に存在した。それでも、自分たちがもつ武器を力に、仲間と力を合わせ戦った。犠牲は当然こちらの方が多かった。それでも、彼らは魔物を倒すことをあきらめなかった。
 しかし、これでは限界があるのはリーダーである彼が一番わかっていた。魔物は海にも空にもいる。今の自分たちが戦えるのは地上の魔物だけだ。途方に暮れるほどの数の魔物が、まだまだいる。このままじゃ、だめだ。
 ――仲間が欲しい。この想い、みんなに、……世界に届いてくれ!

 魔物のするどい爪が彼の腹を刺す。彼は即死した。最後の言葉を残す時間も無いままに。今までの犠牲と同じく、また一つ、小さな命があっけなく殺された。仲間は絶望と深い悲しみを感じた。「もうだめだ」「やっぱり、無駄なのか」、あきらめの言葉がもれる。

 ――しかし、「世界」は見ていた。

 言語も違う、容姿も違う、考え方も違う。それでも、今世界で何が起こっているのかぐらいはわかる。世界中の小さな命は、彼らの行動、勇士にみんなで手を取り合うことを決意した。
 時間はかかったが、こうして、リーダーの想いを継いだ世界中の小さな命と魔物との戦いが始まった。

 海に潜れるものは海で戦い、空の魔物には地上から空から攻撃した。魔物は強い。しかし、こちらには数がある。多種多様な武器ももっている。魔物が毒を出すのなら、こちらも毒を出して戦った。犠牲が出るのは心が痛いが、必ず勝てる。いや、勝つんだ!と世界は一つになった。

 魔物との戦いでは、途方もない時間が過ぎていった。あちこちに死体が転がる。自然も壊され汚され、あちこちに血が混じり、どんどん醜く汚い世界になった。それでも、魔物がいる世界よりましだ。魔物がいなくなれば、また、世界は綺麗になる。そう、彼らは信じた。

 魔物の最大の弱点は、最後は地上に戻ってくることだった。海と空にずっと居続けることは難しいらしい。きっと、翼が疲れるのだろう。泳ぐのも疲れるのだろう。その戻ってきた時を狙う。魔物の知能は高い。その為魔物も考えて、臨機応変に抵抗してくる。それでも、ひたすら世界は戦い続けた。

 とうとう、…とうとう、魔物は残り一体だけになった。ここまで来るのに、どれだけの命を失ったか。どれだけ血を流したか。多くの住処も破滅した。それでも、世界はこの日、この瞬間を待ち望み、戦い続けた。
 今思えば、無謀な戦いだった当初、あの時の彼がいなければ、この日は訪れなかった。彼がいなければ、今でも魔物により無差別な虐殺が行われ、きっと、世界はもっと血みどろで汚く、誰も住めないよう場所になるだろう。
 地中にある頑丈で冷たい壁が広がる洞窟に、最後の魔物はいた。最初はこの頑丈な壁に世界は苦戦したが、長い時とともに攻略方法を見つけ、今ではもう慣れっこだった。戦いの最後は、リーダーの遠い子孫が担うことになった。

「いいのか!?俺たちがいなくなれば、お前らは生きられないぞ!」

 魔物は最後に言葉を発したが、意味はわからなかった。怯えているのは態度で分かる。しかし、世界はもう魔物を許さない。長年、黙っていたが魔物は自由すぎた。魔物は世界に不必要だ。これが世界の声だ。体に力がみなぎる。
 世界中、全ての小さな命の想いを胸に、最後の魔物を――今――。

 ――終わった。長かった戦いは、終わった。やっと、やっと終わった。終わったんだ。土の生き物、植物、空を飛ぶ生き物が、一斉に世界中に戦いの終わりを伝える。世界は魔物の脅威から解き放たれ、自由を手に入れた。
 これから何をしよう?まずは、自然を蘇らせよう。大丈夫。魔物はもういない。もう生まれることもない。自分の代、次の代、時間は沢山ある。

 世界中が喜ぶ中で、とある小さな命は思った。魔物の中には、無抵抗で、自分たちに本当に害があるのか、と悩ませる魔物もいた。自分たちの母性本能からか、魔物の中に無力な幼児がいるのも認識できた。果たして、彼らは魔物なのか。どこから、どこまでが魔物なのか。この戦いの最初の彼は、何を魔物と定義したのか。それでも、疑問を抱いても、戦うしかなかった。別の魔物が迫ってくる。いちいち選別している場合ではなかった。
 他の命は、この疑問を抱くほど頭が良くない。ただただ、生きるために戦った、それだけだった。

 魔物の定義は何か。答えは誰にもわからない。この世界には、もうこの答えを考えられるほど頭がいい生き物がいないから…。

 

 

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