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vol.19:私が赤の他人の家族写真を額装する理由

障害者家族エッセイストの川島田ユミヲです。

以前Instagramに

これを載せたんですね。
日曜日の朝、洗濯物を干していると弟のきよはるが後ろからじっと見守ってくれている。
(またの名を「早く終わらせて散歩行こうぜ…」という、無言の圧力。笑)

そしたらコメントを頂いた方の殆どが

「いやキヨより内田ファミリーの方が気になるwww」
「なぜ部屋に、しかも額に入れて飾るのかwww」

というものばかりでした。笑

これは2018年9月に、俳優の樹木希林さんが亡くなられたおよそ1ヶ月後の2018年10月29日(月)、朝日新聞に掲載された宝島社の一面広告。
同日の読売新聞には、樹木さんが舌を出しているお茶目な別ver.の一面広告が、紙面を飾った。

当時ラッキーにも、朝日新聞を購読していた我が家。バッと新聞を開いて直感的に
「この一面広告はいつか絶対にラミネート処理して、額に入れて飾りたい…!」
そう思った。

だからこの約3年(先述したインスタの投稿は2021年11月)、ずっとその機会を伺っていた。
夏頃に使っていない大きめのタンスなど家具や洋服を断捨離し、私とキヨの寝室が広くなったタイミングで、ホームセンターで購入した額に入れた。
ラミネート処理は印刷屋さんに頼まなければいけない大きさなのと、現物がこれ1枚しかないから、百万が一の失敗が怖くて持って行けない。
だから、たたみジワがついたままの額装になってしまったけど、これでいい。なんくるない。

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私は樹木さんや本木雅弘さんの出るドラマや映画が(全部は追えてないものの)、大好きだった。

特に樹木さんは、芸能人としてはなかなか珍しい、事務所に所属せずフリーで活動されている方だった。
私も過去に俳優を生業に出来たら、と願っていた一端の人間だった。ガンガンいこうぜの精神で活動していたらきっと誰かが声をかけてくれるかもしれない、なんて空気のようにふんわりした希望を持って、長らくフリーで活動していた。

「樹木さんみたいな著名な俳優さんでも、自分でオファー受けてスケジュール管理してるんだ…!」
と、フリーでも活動の幅を広げていくのは難しい事ではない!という、励みになっていた。

映画監督の友人は
「是非自分の映画に出演して欲しい!」
と、公開されていた樹木さんのご自宅に直接ご連絡し、ご自宅の客間(度々ワイドショーなどの記者対応をされていたあの部屋)で企画書を読んでもらったらしい。
映画の出演は叶わなかったものの、ご縁あって


TV番組で一緒に仕事をしていた。誇らしいぜ。

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内田裕也さんと樹木希林さんの様々なエピソードは、所謂 "普通の夫婦“ という型にはハマらない稀有なものばかり。
でも、そこには誰も知り得ない、ふたりだけの "愛“ だったり "絆“ みたいなものがあるのだろう。

ゼクシィのCMでそれを垣間見る事ができた気がする。

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本木雅弘さんはもうアレですよ、NHKの紅白歌合戦で首から無数のコンドームをぶら下げて井上陽水さんの「東へ西へ」を歌唱した、というのを知った頃から
「モックンすごい…!なんて型破りで魅力的なんだろう…!」
と、注目せずにはいられない存在になった。(因みにこのパフォーマンスはAIDS撲滅というメッセージが込められていたそうです)

俳優としての功績は言わずもがなですが、私は「あなただけ見えない」という大変にサイコなドラマがめちゃくちゃ好きで、その後に映画「双生児」を観て、その泥臭い世界観に歓喜した(どっちも主役が一人二役ものだった)。
「幸福の王子」というドラマもすごかったな~~~。「おくりびと」も、納棺師という仕事がテーマのユーモラスある人間ドラマで。めちゃくちゃ感動した。
その後も様々なドラマや映画にも出演しつつ、裕也さんや樹木さんの事でニュースになる度にフォローアップしている姿も堂々としていて、素敵な人だなあ、と感じた。

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そういえば、皆さん家族写真ってお持ちですか?
どのタイミングで撮ったのかな。七五三とか、成人式とか、結婚式とかかな。

うちはもう物心ついたときから両親は家庭内離婚状態だったから、おそらく家族全員で写真を撮るなんて事ができなかったんだと思う。
四姉弟それぞれの七五三とか成人式の写真はあれど、だいたいピンショット。誰も結婚はしてないし、生きている間に家族6人が何かのイベントごとで揃う事は、この先殆ど無いに等しい。次に6人揃うのは、家族の誰かしらが死んだ時の葬儀だろう。私はそこで、棺桶を囲んで初めての家族写真を撮ろうと思っている。そこしかチャンスがない。でも、それでいい。

だから、こういう家族写真には強い憧れがある。
それが内田ファミリーという最高にイカす人たちなら、尚更である。

カッコ良すぎるって。

この写真をわざわざ額装する理由は、決して両親に対する当てつけなんかではない。
写真以上に、その広告に記された樹木さんが生前に残した言葉の、いやさ金言の数々に、私の胸がガンガン打たれた。

これはただの企業広告じゃなくて、芸術作品だ。
特に私が心を揺さぶられた言葉を一部紹介しようと思う。

・絆というものを、あまり信用しないの。期待しすぎると、お互い苦しくなっちゃうから。

企業広告「あとは、じぶんで考えてよ。」より。

くっそわかる。あ、ごめんなさいね、クソとか言っちゃって。
人に期待しない。良くも悪くも。それを悟ったのは多分30歳過ぎてからだったかな。以前友人がスタッフとして参加した小劇場の舞台を観に行った時、

「人間は、勝手に期待して勝手に絶望する生き物だ」

という台詞があった。この言葉に、心を打たれた。完全に撃ち抜かれて穴が開き、私のメンタルは少しだけ風通しが良くなった。
だから樹木さんの言葉が、私のメンタルのトンネルでものすごく響く。

相手との絆を信じていても、その思いは果たして一方通行ではないだろうか。
「この人はきっとこう言うだろう」
「この人なら必ず私のところに来てくれるだろう」
その期待が思い違いだという事に気付かずに、結果が伴わないと
「裏切られた!」
と感じてしまう。勝手な絶望だ。相手だっていきなり絶望されたら驚くに違いない。きっと
「そんなつもりじゃなかった」
と言うだろう。そこで誤解が解ければよいが、場合によってはその言葉が響かない場合もある。それならば、それまでなのである。
人に対してだけでなく、映画やドラマにもそう期待してしまうだろう。それがアカデミー賞でグランプリを獲った作品でも
「思ってたんと違う…!」
と感じたなら、それまでなのである。気持ちを切り替えてもう一度観てみたら違った感想を見つけられるのかもしれないが、それでも思ってたんと違ければ、ただ自分にハマらなかっただけなのだ。

だから私は、良い意味で「人に期待をしない」をモットーにしている。期待してなくて相手から嬉しい言葉をもらえたり何かしてもらえたなら、その方が何倍も嬉しいから。

あと、見返りも求めない。小さい頃よく聞こえてきたのは
「せっかくこっちが “してあげた” のに!」
という言葉だった。してあげた、ってすごく上からじゃん。頼んでねえし、って思うのと、なんか “してあげた” って凄く惨めだなあ、と。
もちろん「相手のために」と思う事はあるけど、それは “してあげる” んじゃなく、“したいからする” だけ。“したいから” は多分言葉の温度や行動に出るから、それを相手が受け取ってくれたら嬉しい、それだけ。

・だいたい他人様から良く思われても、他人様はなんにもしてくれないし(笑)。

企業広告「あとは、じぶんで考えてよ。」より。

これは本当にそうだし、そうでない。と言うのも、人間はひとりでは生きていけないが、最後はひとりであの世に逝かなければならないからだ。
他人様から良く思われなければ、非常に生きづらい環境になる。だからみんな自分の事を話すとき、自らの印象を悪くするような事はおそらく言わないと思う。しかし、自分の外側をどんなに繕っても、それがハマらない人は多くいるし、そこにいる100人全員が自分の事を好きだとは限らない。というか、全員は無理に等しい。

とはいえ、私だって他人様から良く思われたくて、こうしてnoteに彼是書いているところもある。でも、読んでくださる方全員に賛同してほしいとは思っていない。

もしかしたら
「弟をダシに使ってきれいごとばっかり言ってる」
「御託ばかり並べて何も行動していない」

などと言われているかもしれない、というネガティビティも想定しながら書いている。

誰が読んでいるかわからないからこそ、その中のひとりにでも響いてくれたら、それでいいや。ぐらいに思っている。そういう意味では、期待し過ぎずにほんのり期待している。何より、自分で自分の気持ちに落とし前をつけるために書いているというのが大前提なので、自分の抱く信念を、読み返して気持ち悪くない塩梅の文章を書く。それでもしお金を稼げるようになれればラッキーである。そのぐらいのスタンスが健康的だと思う。

・迷ったら、自分にとって楽なほうに、道を変えればいいんじゃないかしら。

企業広告「あとは、じぶんで考えてよ。」より。

そう簡単に変えられない道もあるかもしれないけれど、これは本当にそう。それは逃げでも何でもない。それを逃げだと言う他人様がいるなら、その人から逃げていい。その人はこの先あなたのためにならないし、あなたに確実に何もしてくれない人である。

もう解散してしまった「椿屋四重奏」というバンドの曲で「不時着」という曲がある。

作者の中田裕二さんはこの曲の解説で
「若い頃に思い描いていた理想とは違う目的地に “不時着” したけれど、今までやってきたことに納得は出来てるし、後悔はないし、受け入れられている。椿屋四重奏というバンドの今までとこれからが詰まった一曲」
と言っていた。すごく優しい歌だ。歌の最後の歌詞が心に響く。敢えてここには書かないので是非上記リンクでお聴き頂きたい。バンドのMVもYouTubeにはあるんだけど、そこから更に時を経た2018年の中田裕二さんのソロ音源を貼っておきます。染みるなぁ~~~~。

ちょうどこれがリリースされた2008年ごろは、役者としての活動に様々な面で限界を感じていたときだったし、でももうここまでやったら後悔はないな、とも感じていた。そしてこれからも何か
「こうなりたい、こうでありたい」
と願っても、その願いは叶わないかもしれない。でも、それでいいと思えるように、受け入れられるように、後悔しない日々を送っているつもりだ。「不時着」、生涯の名曲認定です。

・自分は社会でなにができるか、と適性をさぐる謙虚さが、女性を綺麗にしていくと思います。
・楽しむのではなくて、面白がることよ。中に入って面白がるの。面白がらなきゃやってけないもの、この世の中。

企業広告「あとは、じぶんで考えてよ。」より。

めちゃくちゃわかるなあ。楽しむのではなく、面白がる。面白がれなければ、楽しくなれないからね。だから不利な状況であればあるほど、探しちゃうんですよね。この状況でもキラッと光る何か、もしくは、遊べそうなおもちゃが落ちていないかどうかを。
それを見つけられてもそうでなくても、その場で自分ができる事をやる。背伸びしたり、繕うのはもうやめた。いや、まだ多少あるだろうか。だいぶ良い方に諦められていると思う。
自分の適性が何なのかは40年と少しばかり生きてきて、何となくわかったつもりでいて、それで良いと思えている。

・病を悪、健康を善とするだけなら、こんなつまらない人生はないわよ。

企業広告「あとは、じぶんで考えてよ。」より。

病を “障害” に、健康を “健常” に置き換えてみて欲しい。
もちろんハードル(=障害)がない方が良い事もあるし、ハードルがある事で躓いたりぶつかったりして傷つく事もある。その傷を回復させるのも自分次第だし、傷が癒えないままでも進んでいくのが人生だし、支えて併走してくれる人が、気付いていないだけで結構いたりする。そもそも善悪なんて主観だしね。

・“言わなくていいこと”は、ないと思う。やっぱり言ったほうがいいのよ。

企業広告「あとは、じぶんで考えてよ。」より。

だから私はこうして、言わなくていいかもしれない事を、noteに書き綴っている。言わなくていいかどうかは、読者の皆様に委ねます。

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そういえば、この単行本を買ってあったんだった。

ぜんぶ読み返してみた。過去のインタビューの抜粋だけど、何もかも達観している。特に最終章の「死」は、読んでいて怖くなる。樹木さんが怖いんじゃなくて、自分だって明日死ぬかもしれないのに、って思ったら、怖くなった。樹木さんは “がん” になって死に向かう準備ができたから

「死ぬときぐらい好きにさせてよ」

って言えたのかもしれないけど、そんな事を思う間もなく、準備もせずに死ぬ人だっている。
ああ、漠然とだけど、やっぱり悔いのない人生を送りたい。

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最後に。

樹木希林さんの映画で好きなのが「あん」(河瀨直美監督)。
ロケーションの殆どを私の地元・東村山市で行い、高校生の頃によく遊びに行っていた「国立療養所多磨全生園」もそのロケ地に使われていた。
当時のバイト仲間のお母さまが、全生園で確か看護師さんをしている関係で、園内の社員寮に住んでいたからだ。

当時はハンセン病が何なのかも、そこに何故チャペルがあるのか、なぜ納骨堂があるのか、なぜ園内に「国立ハンセン病資料館」があるのかなど、考えた事もなかった。ただ、友達ん家に遊びに行く、という感覚で、その遠い外枠に「全生園」があった。
多分ちゃんとその歴史を知ったのは、知ろうと思ったのは、2015年に「あん」を観てから。そしてより樹木さんを好きになったのも「あん」を観てからだと思う。

俳優・石井正則さんの記録した、全国のハンセン病療養所の写真展。最初は確か2020年春に国立ハンセン病資料館で開催される予定が、9月に延期になって開催された。
コロナ禍で東京に行くのは難しい、などの理由で会場に来られないであろう多くの人のために、Web写真展は会場に展示されたものから厳選されて掲載されている。

コロナ禍になってからの約2年、ずっと

「ハンセン病の事を知る人たちは、この現状をどう思うんだろう」

と思っています。

写真がより多くの人の目に触れるよう、そして今後多くの場所で展覧会が開催されるためにも、有料部分500円を購入する形で応援させて頂きました。

「あん」も素敵な映画だし、全生園も緑豊かでいいところだし、園内の食事処には、映画本編で永瀬正敏さん樹木希林さんが着用した衣装が展示されています。

2018年の写真なので、今もあるといいけど。


国立ハンセン病資料館も、是非訪れてほしい場所です。西武新宿線久米川駅/西武池袋線清瀬駅からバスが出ています。

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最後までお読み頂き、ありがとうございました。
そしてありがたい事に、少しづつですがサポートを頂けるようになりました。嬉しいです。貯まってなにか還元できることがあればいいのだけど、まだ何も決められていません。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。


ハードルがあるのは障害者だけじゃない。「私たちは健常者だから」と言うそこのあなただって、職場や家族間での対人関係だったり病気したり大変な事(ハードル)が沢山あるでしょ?という意味で、エッセイのタイトルは「世の中全員、障害者。」と言います。おススメ&サポートして頂けたら嬉しいです。