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【ゲスト講義第4回】「通訳者の準備について~エンタメ通訳の事例から」講義振り返り

皆さん、こんにちは!今回は関根マイクさん主催の英語通訳塾の授業の一環として2月26日(金)に開催されたゲスト講義「通訳者の準備について~エンタメ通訳の事例から」の振り返りをさせていただきます。


ゲスト講師としてエンタメ通訳者の今井美穂子さんをお迎えしました。今年の『通訳者・翻訳者になる本 2022』でも特集されているエンタメ通訳の第一人者の方です。http://women.japantimes.co.jp/2018spring/schools/simulacademy/
その1時間半の講義の要点を、今回は村、よしむらの2名で特に学びが多かったと感じたことを中心にお伝えします。


冒頭に関根先生からも今回、今井先生にゲスト講義をお願いすることになった経緯について「エンタメ業界の通訳という仕事は映画監督や俳優さんなどの通訳を主にされている。もちろん、ものすごい数の映画も見ているし、知識はすでにすごくお持ちなのは当然。ただ以前に案件を受けた時にどのように準備をするのかということを聞いた時に、それなりの準備はしてるだろうと思った予想を上回ってかなりガッツリやっていて、あ、これは勝てないわと思ったので今回、通訳者の準備というテーマで講義をお願いした」というお話がありました。

個人的に私(村)は今井先生はTwitter(芸能通訳者|今井美穂子 Mihoko Imai @mihoko_imai)もフォローさせていただいていて、映画はもともと大好き!かつ、言うのもおこがましいですが、将来的にはエンタメ分野で通訳者として働きたいと考えているため今回のゲスト講義は非常に楽しみにしておりました。

エンタメ通訳について

村: 今井先生は通訳になる以前、もともと映画の配給会社でバイヤーとしてお仕事をされていたという背景があり、そこで従事された業務を通じて映画の基礎知識をつけることができたそうです。バイヤーという仕事は「青田買い」がものをいう世界であり、まだ完成していない映画の「監督、主演は誰か」「どのような内容か」を脚本を読み込むことでリサーチし、その情報をもとに色々な映画祭などで買い付けを行うお仕事です。その当時は年間で200〜250本(!!)の映画を見られていたそうです。そんな既に映画のスペシャリストとも言える今井先生ですが、実際にエンタメ通訳として独立されると日々勉強が足りないと感じられるというような非常に厳しい世界でもあります。驚くべき数字ですが、日本で年間を通じてエンタメ通訳をメインとしてお仕事されていらっしゃる通訳者は、わずか10人程度しかいないということでした。

よ: このように今井先生はフリーランス通訳者として活躍され始めてからも、様々なアサインのための準備の一環として年間に何百本もの映像作品をご覧になっているとお伺いしました。映画を観るというと簡単で楽しそうな響きがあります。それはとんでもない誤解でした。では、なぜそれほどの準備が必要なのでしょうか。あらゆる過去作品が頻繁に話題に上がるからです。もちろん名匠や有名なジャンル、その系譜も既に把握された上で、さらにその作品の監督、俳優などのスピーカーが今回触れるであろう名作や作品のオマージュの元となった(下敷きとなっている)作品や、なんと一つひとつの担当する作品中の場面についても熟知していなければならないのだそうです。筆者(よしむら)が驚いたのは、時には一部のセリフやキーワードを、一時停止を繰り返しながらエクセルシート(単語リスト)にまとめてしまうというお話でした。「作品をしっかりと観ておくことで、適切な言葉選びをすることができる」ともお話され、とても説得力がありました。

エンタメ通訳における準備について

村: さまざまな案件における準備を具体的にご紹介いただきましたが、私(村)が一番印象に残ったのは、2017年に公開された映画『キングコング・髑髏島の巨神』(https://wwws.warnerbros.co.jp/kingkong/)の監督であるジョーダン・ボート=ロバーツ監督と出演されている俳優のサミュエル・L・ジャクソンさんが映画のプロモーションで来日した際に今井先生が通訳を担当された時の準備についてでした。

このキングコングという作品は古くは1933年からアメリカで作られ始めた特撮映画のシリーズもの、もといキングコングものというジャンル映画と言っても過言ではない作品の最新作ということもあり、準備に向けてキングコングの一番古い作品から最新作まで全て、またゴジラ映画も全てを見直されたそうです。(今年、『ゴジラvsコング』という新作映画の公開も予定されていますが、日本のゴジラ映画との繋がりも深い映画です)また、それだけではなくジョーダン・ボート=ロバーツ監督が日本カルチャーのマニアということもあり、事前にさまざまなリサーチをして臨まれたそうです。ところが当日、映画の内容と関係がないさまざまな日本作品の英語タイトル(例: PS2のゲームソフト「ワンダと巨像」の英題:Shadow of the Colossus、ポケモンのキャラクターのカラカラの英語名:Cubone)など想定外の変化球が飛んできたりしたそうで、準備をし始めると調べたいことが、アメーバ状に広がっていきどれだけ時間があっても足りない、どこかで線引きをすることが大切とおっしゃっていたのが印象的でした。

Q&Aセッションから


よ: 予定の時間を過ぎながらも、受講生からの質問に真摯に答えていただきました。筆者(よしむら)が心に残ったお話の一部をお届けしたいと思います。


「翻訳は的に射るように、通訳は網を投げるように」
様々な話者に適切に対応されているという話題で、難局を乗り切るときにはより広い意味を含む言葉を選んで、間違いにならないように訳出し続ける方を選ぶというアドバイスを頂きました。関根先生も頷いていらっしゃる場面でもあったので、最前線で活躍されている方にとっては常識であるこの技術を、我々受講生も身につけていかなくてはと感じました。


「準備は掛かる時間を予想して、優先順位をつけて取り組む」
理想の完璧な準備を実現しようとすると何週間かけても終わらない、けれども限られた時間の中で必要な時間や順番を守って着実に準備されている、というお話でした。筆者(よしむら)は技術が足りていないのも相まって、しっかり準備してもなかなか成果に結びつかず、悶々とする日々が続いていますが、最大の成果になるように取り組んでこられたお話を伺って背中を押していただいたように思いました。ご自身の手順に従って粛々と情報整理と記憶作業を進められているのは、今井先生ご自身の全てのキャリアの中で長く培われてきたものなのだろう、と自信に満ちたお話しぶりから感じました。


「特に面白いのは個別取材・ファンとのふれあい、そして大変なのは場面ごとに適切な通訳を実践すること」
雑誌やウェブメディアといった取材時は作品の深い話まで話が及ぶことが多く、これこそが芸能通訳の醍醐味だとおっしゃっていました。また熱狂的なファンと俳優を繋げることも、ご自身も昔からの映画ファン、としてファンが涙を流して喜ぶ気持ちに寄り添える分、とてもやりがいがあると話していただきました。また、あらゆる場面ごとに異なる要望がある通訳を柔軟に行うことに特に気を配われており、司会者など関係者との信頼関係を大事にして円滑に行うようにされているそうです。 


「冷静に、ニュートラルに、出すぎずに、引っ込みすぎずに」
通訳を担当する海外からの話者に対してはどのような姿勢で対応されているのかという質問に対して上記のご回答でした。プロフェッショナルとして任せられる、求められる仕事を達成できることをしっかりと態度で伝えるそうです。大物映画監督や有名スターが安心して伝えるべきメッセージを発信できるように、今井先生はこういった適切な距離感や姿勢を大切にされています。


最後に


村:本当に今井先生は素晴らしい通訳者であり、いつも軽やかにプロフェッショナルに通訳をされていらっしゃいますが、その舞台裏にはこのような努力があるのだという一端を惜しみなく見せていただき大変感激しました。個人的にも、これからも勉強を続けていきたいと強く思いました。本当にありがとうございました。最後になりますが、このような機会を作っていただいた関根先生にもお礼を申し上げます!ぜひこの下のリンクより素晴らしい今井先生の逐次通訳をご覧ください。

https://www.youtube.com/watch?v=va-B7wsF-EQ

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