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『ウインド・リバー』〜アメリカの暗部から響くエレジー〜

最近は在宅勤務や休日の外出自粛などで、自宅にいる時間が増えていることと思います。そこで、NetflixやAmazon Primeで鑑賞できるオススメの映画を紹介します。

今回は2018年に日本で劇場公開されたアメリカ映画『ウインド・リバー』についてネタバレなしで紹介します。分かりにくい背景なども解説できればと思いますので、一度ご覧になった方も是非読んでいただければ幸いです。


あらすじ
 
ワイオミング州ウインド・リバー・インディアン居留地。FWS(合衆国魚類野生生物局)の職員、コリー・ランバートは荒野のど真ん中で少女の死体を発見した。FBIは事件の捜査のために、新人捜査官のジェーン・バナーを現地に派遣した。自然の過酷さを甘く見ていたバナーは、捜査に難渋することとなった。そこで、バナーはランバートに捜査への協力を依頼した。2人は荒れ狂う自然と剥き出しの暴力に直面しながらも、ネイティブ・アメリカンの村社会の闇を暴き出していく。

監督は『ボーダーライン』(2015)で知られるテイラー・シェリダン監督、主演は『ジェシー・ジェームズの暗殺』(2007)『ハート・ロッカー』(2008)などで知られ、MCUでフォークアイを演じたジェレミー・レナーと『マーサ、あるいはマーシー・メイ』(11)やMCUシリーズのスカーレット・ウィッチを演じているエリザベス・オルセン。そして『ウォーキング・デッド』や『パニッシャー』のジョン・バーンサルがキーパーソンとしても出演しています。

まずこの映画を紹介するにあたって、その背景をいくつか押さえておく必要があると思うので、そちらの説明からしていきましょう。

インディアン居留地について

舞台となるワイオミング州ウインド・リバー・インディアン居留地について。
ワイオミング州はアメリカ合衆国の北西部、ロッキー山脈上にあり、ロッキ寒暖差が激しい土地です。

ウインド・リバー居留地はそんな過酷な自然環境の中にあります。

そもそも居留地とは何かと言いますと、アメリカ大陸に入植してきた白人がネイティブ・アメリカンから土地を没収し、代わりに彼らに与えた土地のことです。

簡単に言うと白人が豊かな土地を奪い取り、草木の生えない南部の荒野や極寒の山脈の上などに先住民を強制移住させました。強制移住政策は3代大統領トーマス・ジェファーソンが行い、当時白人の土地ではなかったアメリカ西部に多くの居留地を作りました。

現在、全米各地に100近くの居留地がありますが、貧困率、犯罪率、自殺率は全米平均の何倍も高いんです。理由は単純に貧しいから。政府の管理がまるで行き届いておらず、オバマ大統領が援助を増やしたものの、全く足りていないのが現状です。
さらに、居留地にある石油や天然ガスの採掘権や利益は全部連邦政府に吸収されてしまいます。もし、天然資源の利益が先住民に分配されれば、彼らの生活は劇的に改善されるはずなのですが。

居留地が無法地帯となるアメリカの法制度

居留地というのは州の管轄ではなく、連邦政府の管轄の土地なので、居留地内での犯罪を裁くには連邦警察、いわゆるFBIの管轄です。市警や郡警察(保安官)は居留地の中で捜査ができません。

居留地はだいたい日本の都道府県ばりの面積があり、ウインド・リバー居留地には約2万7千人ほどの人が暮らしていますが、ほとんど無法地帯と言ってもいい。作中のウインド・リバー居留地には6人しか市警察がいません。6人で一都道府県を管理するなんて、犯罪を認知することも難しいでしょう。さらに、犯罪が起こっても市警察は捜査できません。FBIを呼んでも来るのに時間はかかるし、来るのは一人か二人、まともな捜査にならないことが多いので、居留地は無法地帯になっていることが多いんです。

そんな土地で一人のネイティブ・アメリカンの女性が変死したというのがこの映画の始まりです。裸足で、極寒の雪山を走り回ったので足の指は壊死しています。マイナス30℃の冷気を走って一気に吸い込んだことにより肺が凍って即死、というのが死因であることが分かります。つまりこの女性は殺人ではなく、自然死であり、FBIは捜査できない。レイプされているものの、アメリカの連邦法では、レイプは連邦政府が捜査する凶悪犯罪の規定に入っていません。

 FBI捜査官のジェーンが警察とFWS(家畜に害を及ぼす動物の駆除を管理する組織)のハンターのコリーと共に殺人事件として捜査をしていくうちに、居留地の闇がどんどん暴かれていくというのがこの作品のストーリーの筋です。

シェリダン監督は緊迫感を演出するのがとても上手い。些細な行動でとんでもない自体を招くという緊張感が見ているこっちも手に汗を握ります。

そして『ボーダーライン』のようにアメリカを露悪的に描くことにかけてはピカイチですね。アメリカの正義の詭弁を常に描き続けてきました。

シェリダン監督はウインド・リバー居留地で、異常にレイプ事件や女性の行方不明者が多いというルポルタージュを読み、今作の着想を得たんだとか。広大な土地に6人しか警察がいないのだから、レイプして殺して雪山にでも埋めてしまえば、永遠に見つかることはないでしょう。恐ろしい土地です。

ウインド・リバー居留地は、作中で「この土地は凍った地獄だ」と言及されます。そんな「凍った地獄」に先住民を追いやったのは誰でしょうか?

娘を失った父親の悲しみが先住民の歴史と重なり、自然の中での人間がいかに弱い存在なのかを思い知る大傑作です。

『ウインド・リバー』はNetflixとAmazon Primeで鑑賞できます。

ちなみに参考にしたのはこちら




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