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石舞台古墳と酒船石に触れてみたらどうなる? 飛鳥の歴史と神秘に思いを馳せる

【約2,200文字】
 古代史にロマンを感じる。とくに飛鳥時代には、政治や文化が大きく揺れていたと聞く。そんな遺跡を訪ねてみたい。
 私は近畿日本鉄道で飛鳥へ向かった。日本人の心の故郷といわれる飛鳥は、自然豊かで静かな村だ。飛鳥駅から自転車を借りて、まずは石舞台古墳に向かった。

 石舞台古墳は、日本最大級の方墳といわれる。その巨大な石に触れると、どんな感じがするだろうか。また、酒船石という、不思議な形をした石も見てみたい。この石は、何のために作られたのか。そんな興味と期待を胸に、拝観券を買って中へ入った。

 遠くからでも一目でわかる。巨大な火成岩(トーナル岩)が積み上げられている。本物の石舞台だ! と認識すると、興奮が高まった。
 こう言っちゃ何だけど、私は遺跡見学の素人である。別に学校で歴史が苦手だったわけではない。それにNHK「歴史探偵」も毎週見ている。
 しかし、いざ本物の遺跡・古墳を前にすると、気持ちがうわずってしまった。浮足立つというのだろうか。ハイテンションになって、喉が渇く。しかも今回は古墳の王様・石舞台である。やっと来たんだという感激が溢れた。

 てな具合で石舞台の前に立ったものだから、どうしていいのかわからない。
 古墳の周りを走る子どもが親に呼ばれている。団体のお客さんがちょうど帰るらしい。最後にみんな石にタッチしている。美術館や博物館の展示物、とくにメインの展示物に触って帰る経験などない。だが、古墳はOKらしい。
 注意書きの確認をする。「石の上に乗らないでください」とあるが、触れることを禁じてはいない。中へ入る。私ひとりだ。

 そっと、石に手をつける。冷たくてざらざらした石の表面が、手のひらに刺激を与える。石に力を入れて押してみる。
 石は微動だにしない。ビルの柱に触れたような、圧倒的な重さが、手から骨に、骨から髄液を伝わり、全身にひびく。
 この石は、どれだけの時間と労力をかけて運ばれ、積み上げられたのだろうか。どんな人が、どんな思いで、この古墳を造ったのだろうか。そんなことを考えながら、石に触れると、古代の人々との繋がりを感じた。

石舞台古墳内部、隙間にシダが生え小銭が置かれている

 近くで見ると、シダが生え、いたるところに小銭が落ちている。これは、お参りのしるしとして、人々が置いたものだろうか。
 調子に乗って、もうほんの少しだけ、力を入れて押してみる。でも、全く動かない。触れた瞬間にわかる。でも、ついついやってしまう。きっと、千年以上も前から、誰もが触って、そっと押してきたんだ。小銭があるのも、触ったからだ。
 世の中には大きな石があるもんだな、と不思議な感動をする。そりゃ当然、といえば当然のことだ。けれど、こんな石を気軽に見かけたりしないから「何かしらんけど、ありがたい」という気持ちになる。
 誰のお墓とか、そういうことじゃない。この巨石にこの世のものでない何かを感じ、お金を置きたくなる。とくに押してみると直に石舞台が伝わってくる。
「わたしもお布施を」
 と思うのだが、どうも生来の貧乏性が邪魔をしてか、真似できない。
「小銭を集める人が大変だし」
 と自分に言い訳をして自転車に乗った。
「次は酒船石だ!」

 石舞台古墳から北へ約5分。酒船石遺跡がある。駐輪場もしっかり確保され、整備された竹林の階段を数分登れば、酒船石だ。
 酒船石は宇宙人の仕業なのか、それとも怪しい儀式に使われていたのか。妄想をしながら階段をのぼる。石舞台の感触を手に残し、酒船石の前に到着した。
 目を疑った。小学校の低学年くらいだろうか。子どもたちが、酒船石に乗って遊んでいたのだ。
 酒船石は、神聖な石として崇められていたのではなかったのか。
 子どもたちは、まるで遊具のように、石の上で跳ねたり、ビンタを食らわせていた。

酒船石、下のくぼみに雨水がたまっている

 上に乗ってはいけない、などの注意書きはどこにもない。怪我さえなければいいのだろう。私が初めてみた酒船石は、子どもが上に乗った状態だった。
 考えてみれば、くぼみのある大きな石というだけだ。それは登りもするだろう。

 1984年の正月映画『里見八犬伝』をご存知だろうか。深作欣二が監督を務め、主演は薬師丸ひろ子と真田広之。さらに千葉真一や京本政樹、寺田農などが脇を固め、萩原流行や夏木マリの怪演が光る異色作だ。

 この映画の冒頭(03:10~)、玉梓役(夏木マリさん)の儀式シーンに「酒船石」が登場する¹。石の頭っぽい部分に手を押し当てると、割れてしまうのだ。
 登る子どもがいるんだから、押すくらい楽勝だろう。

 私は、石の頭っぽい部分を力強く押してみた。すると、不思議なことが起こった。手に石の感触が残って消えないのだ。石がふわりと浮き上がり、私の手のひらに乗った心地がする。

 酒船石に触れたからか。帰り道、道に迷ってしまった。
 でも、いいじゃないか。石舞台古墳と酒船石に触れて、飛鳥の歴史と神秘に思いを馳せる一日を過ごしたのだから。
 きっと、私は何かを見つけたのだ。それは、古代の人々との繋がりだったのかもしれない。それとも、この世のものでない何かだったのかもしれない。でも、あの日は帰り道を見つけることが先決だった。

飛鳥は、ほぼ田んぼ道でした


ソース:
¹:深作欣二監督『里見八犬伝』出演:薬師丸ひろ子, 真田広之 販売:KADOKAWA / 角川書店、1983


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