サンタの作戦

              
 「太郎、今年はサンタクロースは来られないそうだよ。風邪をひいてしまったんだって」 
 えっ、と僕は思った。父さん、何をとぼけたことを言っているんだろう。だって、サンタは父さんなんだし、父さんは元気でピンピンしてるじゃないか。それで僕は、反撃してみた。
「あれ?健太の家には来るって言ってたよ。健太、もう欲しいもの頼んだって」
 父さんはちょっとひるんだけど、もっともらしく言った。
「健太くんのとことウチは、担当のサンタが違うんだよ。ウチ担当のサンタは風邪ひきだ」 
 ちぇっ、と僕は思った。きっとボーナスが減った分、僕へのプレゼント代をカットしたんだ。悔しかったけど、僕は何も言えない。 
 父さんと母さんは、僕がサンタの正体に気が付いていることを知らない。今だに信じていると思っている。もうとっくの昔に知っていた、なんて言ったら、どんな顔するかな。僕はまだ小学校六年生だけど、学校の友達で、サンタを信じてるヤツなんてほとんどいない。でもみんな親には黙っている。だって、言ったら最後、プレゼントがなくなるのは目に見えているから。だから僕も、来年を信じて黙っている。
 僕がサンタの正体を知ったのは結構早くて、三年生の時だった。目が覚めたら、プレゼントが枕もとにあったのは良かったのだけど、その上に洗濯物が置いてあったんだ。きっと母さんが無造作に置いてしまったのだろうけど、僕はとってもガッカリした。その時に思ったんだ。これはきっとサンタからのプレゼントじゃない。もし本物だったら、いくら母さんでもこんなことしないだろうって。でも母さんには黙っていた。言ったら最後…だからだ。
 そんなサンタが今年は来ない。ウチ担当のサンタだけ風邪をひいた。そんなことあるかいって思うけど、仕方ないなあ。
 クリスマスイブ、僕は何も期待せずにベッドに入った。本当は今年こそ薄目をあけて、父さんを確認しようと思っていたんだ。毎年そう思いながらも、いつのまにか寝てしまっていたからね。だけど、頑張る必要もなく、すぐに僕は眠ってしまった。
 朝起きて、僕は驚いた。プレゼントがあったんだ。しかも僕が欲しいと思っていたものが。僕は父さんに言った。
「風邪ひいたんじゃなかったの?」
 父さんも目を見開き驚いていた。
「おかしいな…。来ないって言ってたのに」
 本当に驚いているようだった。サンタは父さんではないのか、本物のサンタがウチに来たのか、僕はワケがわからなくなった。
 
 「太郎、もう寝たかしら?」
 母さんが言った。父さんが僕のベッドをそっとのぞいてから答えた。
「ぐっすりだ。今がチャンス。プレゼント持ってこい」
 父さんと母さんは、僕の枕もとにプレゼントを置き、ちょっと笑ってから居間に戻っていった。
「太郎、俺がサンタだって、うすうす気が付いていたようだったが、さすがに今年は、確かめる気も失せたようだな。俺たちの作戦勝ちだな、母さん」
「そうかしら。こんなことでサンタを信じるなんてことないような気がするわ。太郎、もう子供じゃないから」
 満足げな父さんに、優しい笑顔を向けながら母さんが言った。

 僕はぐっすり寝ていた。父さんと母さんがこんな話をしていたなんて、全然知らないままに。僕はほんの少しだけサンタを信じた。サンタが父さんでも、本物でもそんなのどうでもいいやって思った。サンタが僕のところに来て、プレゼントを置いていってくれたら、それでいいんだって。だから僕は知らないふりを続けることにした。父さんがサンタだって、サンタには変わりないさ!