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SS【迷いこんだ不思議な世界】


「ここはどこだ?」


気がつくとぼくは見たことのない小さな公園のブランコに座っていた。

遠くの空には真っ黒な雨雲が見える。

ぼくには今日が何日の何曜日で、ここがどこかも、自分が誰かも、なぜここに居るのかも分からない。

ブランコに座りながらいくら考えても何も思い出せない。


背後から声がした。


「押すよーー!!」


振り返ると白いワンピースを着たお団子結びの小さな女の子が、ぼくの背中を力いっぱい押している。

ぼくが足を浮かせるとブランコは振り子のように動き出す。

ブランコが前にいくたびに女の子がぼくの背中を押している。


振りが大きくなると女の子は消えてしまった。


するといつの間にか今度は先ほどまで遠くに見えていた真っ黒な雨雲が真上まで移動していた。

突如、空がゴロゴロと鳴り出したかと思ったら、ザーー!! という音とともに白っぽい何かが降ってきた。

あられ・・・・・・いや、手にとってよく見ると白いりゴマだ。ぼくがトンカツを食べる時に使うソースに混ぜているやつである。


あっという間に真っ黒な雨雲は過ぎ去り、雲一つない晴天になった。


少し離れた砂場では、先ほどの女の子が一人でおままごとをして遊んでいる。

ぼくが近寄ると、女の子は地面に降り積もったゴマを両手で一生懸命かき集め、大きなすり鉢に入れている。

そしてどこに隠し持っていたのかスリコギを取り出すと、ゴリゴリとすり潰し始めた。

香ばしい匂いが辺りに漂う。


「はい、どーーぞ!!」


女の子は屈託のない笑顔でぼくにすり鉢を手渡すと、公園の中央にある滑り台のてっぺんに向かって、滑る方から駆け上がった。

空に向かってスリコギを勢いよく突き上げると、天から光の柱が降りてきて女の子を包んだ。

光の柱は女の子を包んでものすごい速さで天に昇っていった。


ぼくはそこで意識を失った。

それからどれくらい時間が経っただろうか?


「ここはどこだ?」


ぼくは気がつくと、見たことのない小さな公園のブランコに座っていた。

空は青いが遠くの方には真っ黒な雨雲が見える。


「この光景、どこかで・・・・・・」


いったいどれくらい繰り返したか分からない。


女の子が空に向かってスリコギを勢いよく突き上げると、天から光の柱が降りてきて女の子を包んだ。

ぼくはその瞬間、思い切って光の柱に飛びこんだ。

すると女の子はぼくに強く抱きついた。

もの凄い速さで上昇する光の柱の中で、ぼくの忘れ去っていた膨大な記憶が蘇ってくる。


「パパーー!!」


目覚めるとそこは病院のベッドの上だった。

あとから奥さんに聞いた話では、ぼくは交通事故に遭い、二度と意識が戻らないかもしれないと言われていたらしい。

白いワンピースを着た小さな女の子はぼくの娘だった。

毎日病院へやってきては、ぼくの横でおままごとをしたり、ぼくに大好きなゴマの香りをかがせたりしていたようだ。

いくら呼んでも返事もしないぼくを、何度も何度も呼びにきていた。


ぼくはベッドによじ登ってきた娘を強く抱きしめると、生きる喜びを噛みしめて泣いた。


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