こし・いたお

140字小説の鬼

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  • 140字小説

    削って削って、磨いて磨いて仕上げた140字小説です。

  • 54字の物語

    10秒足らずで読める物語にて、爽快な落ちをお届けします。

  • 散文

    散文です

  • ショートショート

    隙間時間にサクッと読めて、落ちを楽しめるのがショートショートの魅力です。

  • 短編小説

    数万字に及ぶ小説を書いたのは「不死者の決戦場」が初めてです。創作初期の作品です。文字数が多くなると誤字や脱字が多発します。僕だけだと数百字の短い物語でさえ、誤字が発生しても気付けないことがあります。ましてや数万字ともなればもう…そこで力を貸してくれたのがMさんでした。Mさんは続編の「凍てつく魂の地下迷宮」でも力を貸してくれました。二作品ともMさんの力なしでは未完成のままだったと思います。Mさん、その節は大変お世話になりました!!

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140字小説【届け!!】

「特技はありますか?」それは私がお見合いの時にした夫への質問。「肩だけは強いんです。遠投なら誰にも負けません。役に立ったことは一度もないですけどね」そう言って笑った夫の顔が一周忌に蘇り泣いた。あの時、夫と共に川で流された娘は岸へと戻れた。夫が最後の力を振り絞り、投げてくれたから。

    • 140字小説【ルール】

      ビルとビルの間に一人がやっと通れる細い抜け道があった。左へ一回折れた先にはルールに縛られることを嫌う父がモツ鍋の店を営んでいる。すれ違いできないので合図する。手を叩く人。口笛を吹きながら進む人。歌う人。でもある日、合図した、してないと揉める客を見た父は呟いた。「合図を統一しよう」

      • 140字小説【タンポポ】

        作家になる夢を追う夫。でも花を咲かせるどころか芽の出る気配もない。作家の世界はそんなに甘くないのだろう。石の上にも三年と夫は言うけれど、石の上では根も生えない。だから私はそのまま腐ってしまいそうな夫を手のひらに乗せ、次こそ芽が出ますようにと息を吹きかける。夫はまるでタンポポの種。

        • 140字小説【学び舎】

          「みんな集まって!講義を始めます。本日のお題は承認欲求に囚われないです」定年退職した僕は一人で田舎に移住した。購入したのは激安だけど訳ありの古い屋敷。誰もいないのに廊下や階段から聞こえる足音。複数の影が目の前を通り過ぎる。でも僕が本で学んだことを語ると、“生徒たち”は静かになる。

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          140字小説【食べないけどね】

          おにぎりの具は無数にある。僕の中では梅干しが一番だ。流行病に苦しんだ時、病み上がりで最初に食べたのは梅干し入りおにぎりだった。五月病の新入社員みたいに会社を辞めると呟いた時、辞めるなと口を酸っぱくして応援してくれた君は、僕にとっては梅干しだった。でもたまには違う具も食べてみたい。

          140字小説【食べないけどね】

          140字小説【君は独り言が多い】

          「ちょっと待って!君さ、以前から気になっていたんだけど、君は一人で過ごす時間が多いせいか、やたらと独り言が多すぎないか?頭の中を整理しているのかい?僕はね、まるで君が誰かと会話していると錯覚する時さえある。キモいんだよ!」最近やたらと独り言が多いので言ってやった。鏡の中の自分に。

          140字小説【君は独り言が多い】

          140字小説【買取らないで…】

          私は超ど田舎の買取専門店で働いている。馬鹿すぎる店長がなんでも買取ってしまうので今月も赤字だ。今日は本物と見間違えるほどリアルな熊の着ぐるみを買取ろうとしている。店長の話では変わった客で着ぐるみを着たまま売りにきたという。「売りたいならそれを脱いで!」急かす店長と後ずさりする私。

          140字小説【買取らないで…】

          140字小説【脱ぎ捨てた仮面】

          私は仮面を被って生きてきた。この仮面は息苦しい。私を守る為に被っていたはずの仮面にじわりじわりとエネルギーを奪われ苦しかった。ある日、私はあまりの息苦しさに仮面を脱ぎ捨てた。すると仮面は鳥になり、まるで感謝するように私の周りを幾度も回り大空に消えた。仮面の名はつまらないプライド。

          140字小説【脱ぎ捨てた仮面】

          140字小説【僕なら少年Aを止めれたのに】

          「おはよ」朝からA君が刺すと引っ込むオモチャのナイフで僕の背中を突いた。A君はクラスの女子に愛の告白をする前も、就職の面接に行く前も、僕を使って練習した。昔からA君は本番前に必ず予行演習する癖があることを僕は知っていた。だからA君がいじめっ子を刺し殺したのは、僕にも責任がある。

          140字小説【僕なら少年Aを止めれたのに】

          140字小説【天国への階段】

          俺は犯罪を重ね法の裁きから逃げ続け生きてきた。この果てしなく続く階段を上れば目的地に辿り着けるらしい。二段飛ばしで駆け上がる笑顔の少年。背中には羽が生えている。穏やかな表情の老人は杖をついているのに足取りは軽やかだ。でも俺は背中の荷物が重すぎて上れない。罪を背負いすぎたようだ…。

          140字小説【天国への階段】

          140字小説【とうとう寝た】

          僕たち夫婦は還暦を迎えた。妻は超ショートスリーパーで、僕は妻の寝ている姿を一度も見たことがない。それなのに僕より活動的で病気一つしなかった。しかし、その日は突然やってきた。「眠い…」と呟き横になった妻は、そのまま三十年間眠り続けた。やはり人生の三分の一は睡眠時間なのかもしれない…

          140字小説【とうとう寝た】

          140字小説【使えない】

          ミステリー作家志望の僕の家には決まり事がある。もしも大きな揺れに見舞われたら頑丈で家具が倒れる心配のないトイレに集合しようと。ある日、僕が用を足していると大きな揺れに見舞われた。「臭い…」でも扉は壊れて開かない。一人、また一人と倒れる家族。「これは…クローズドサークル。使えるかも」

          140字小説【使えない】

          140字小説【愛の電池】

          僕は迷子の振りをし初対面の女に駅への行き方を尋ねた。勇気を出さないと後悔すると思ったからだ。僕には他人のある数値がスマホの電池残量のように見える。女の残り数値は1。繊細で優しい女は「一緒に行きましょう」と言ってくれた。お礼に駅でかりんとう饅頭を買って渡した。女の数値は2になった。

          140字小説【愛の電池】

          140字小説【平和の代償】

          戦争の続く殺伐とした世界に嫌気の差した僕は神に嘆願した。平和な村で永遠に年をとらずに暮らしたいと。お陰で争いとは無縁の環境に身を置くことができた。いつも同じ道を歩き、村を訪れる旅人に話しかけられると同じ台詞を返した。村から出ることも叶わない。神はゲームクリエイターと呼ばれていた。

          140字小説【平和の代償】

          140字小説【ご一緒しますよ、とも言えないし…】

          昔は外を歩けば道を尋ねられることがよくあった。「地元の方ですか?この辺りにおいしい魚を食べれる店はないですか?」とか。今ではとんと尋ねられることはなくなった。万能なスマホの影響だろう。少し寂しい気もする。この世への未練を断ち切れず彷徨う人が、天国への行き方を尋ねてくるくらいだ…。

          140字小説【ご一緒しますよ、とも言えないし…】

          140字小説【箱の中の繊細な彼女】

          彼女と同棲して半年。朝から些細なことで喧嘩になった。「出ていけ!」口走る心無い言葉。仕事の休憩中に一通のメッセージが届いた。「出ていきます」僕は内心穏やかではなかった。終業と同時に会社を飛び出しアパートへ。部屋には(割れもの注意)のシールが貼られた大きな段ボール。中から音がする…

          140字小説【箱の中の繊細な彼女】