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岸本佐知子と文体練習:『居心地の悪い部屋』

翻訳家の岸本佐知子さんが編んだ英文アンソロジー『居心地の悪い部屋』を読んだ。不気味な世界観がかなり面白いのだけれど、個々の作品の「文体」のバリエーションにも注目したい。


ポール・グレノン『どう眠った?』は、カギカッコを使わず全編会話文体で通す。意味はちょっと分からないけど比喩がすごい。

どう眠った?
スコットランドの狩猟小屋のように眠ったよ。
丸太の?

ダニエル・オロズコ『オリエンテーション』は、新入社員への説明という文体で社内のさまざまな人物の描写を重ねる。二人称「あなた」を多用しつつも神の視点の客観描写が続く。

あなたの左のブースに座っているラッセル・ナッシュは、あなたの右のブースのアマンダ・ピアースに恋をしています。

ジョイス・キャロル・オーツ『やあ! やってるかい?』は全編通して1つの文になってる。つまり句点(。)がない。息継ぎさせない畳み掛ける文体だ。野坂昭如の感じにも近い。ランニングのモチーフも相まって疾走感がある。

十二インチのナイキを履いた件のマッチョなジョガーは、やあ! やってるかい! 馬のように頑丈な歯を閃かせ、…

とくに特徴的なのはこの三つ。内容的には、最後のケン・カルファス『喜びと哀愁の野球トリビア・クイズ』が好き。これも「トリビア」という独特のQ&Aスタイル。

文体のバリエーションに特化した作品といえば、レイモン・クノーの『文体練習』がある。一時期編集学校で、これを教科書にしていろんな文体研究に取り組んだ。

文章の組み立て方は、だである/ですますの選択だけではなく色々ある。noteでも何かと試してみたい。

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