見出し画像

狂乱の時代に花咲くジャズピアノ/Wiéner & Doucet - Les Années Folles [EMI Classics]

Artist: Clement Doucet & Jean Wiéner
Title: Les Années Folles
Label: EMI Classics
Genre: Classical, Jazz
Format: 4*CD
Release: 2013

https://www.discogs.com/ja/release/16108163-Wi%C3%A9ner-Doucet-Les-Ann%C3%A9es-Folles

1920年代、第一次世界大戦が終わり、大恐慌が始まるまでのおおよそ約10年間、パリには「狂乱の時代」と呼ばれる時代があった。この時代において、パリの芸術や文化の発展に大きく貢献したキャバレー「屋根の上の牛」の看板ジャズピアニストのClement Doucet & Jean Wiénerの古物録音の音源集。

フランス近代の作曲家のダリウス・ミヨーの代表曲の名を借りたキャバレーには、クレーマン・ドゥセとジャン・ヴィエネールが芸術家の交流の場でジャズピアノに興じていたという。そこに集まっていたのは、パブロ・ピカソ、ココ・シャネル、マン・レイ、マルセル・デュシャン、ジャン・コクトー、ルネ・クレールなどを始め、現代においても眩暈がしそうなほどに著名な芸術家だった。

SP原盤の板起こしの音源であるため、レコード特有のノイズが随所に乗っているが、録音された時代のことを考えると、このノイズが一種の郷愁感を掻き立て、軽快で小気味の良さを感じさせるピアノの自由さに良い塩梅で絡みついている。1920年代という今から100年程度前の録音が後の第二次世界大戦の戦火の難から逃れて残っている奇跡と、当時その場で交流を交わしていた偉大な芸術家の耳にも触れたであろう音楽に思いを馳せ、タイムスリップして同じ音楽と同じ空間を共有しているかのような錯覚は乙なものである。

とりわけ個人的に感動したのは、誰しもが知っている有名なクラシック音楽を軽快にジャズアレンジをしている楽曲群である。一音一音の軽快さと一種のエンターテイメント性を感じさせる自由さが非常に魅力的で、自由であるということは何なのか、別の形へと昇華させるとは何なのかを考えさせられる。クラシック音楽の伝統を解体して、原曲の良さを損なわせず、ピアノ一本でジャズへと再構築し昇華させるその素晴らしさよ。

古物録音の世界が面白いのは、今にはない、その時代にしか創りえない音楽がさも平然とそこに存在していることに加え、そういった音楽的な価値や魅力のほかに、歴史的価値という付加要素が必ず加わってくることである。歴史とは主に文章による書物や当時の写真や映像資料などにより学ぶこともできるが、それらに加え、音楽的な要素でのアプローチが可能になってくる点である。歴史的な事件の背景に音楽がどれだけ関わってくるのかは分からないが、少なくとも当時の市井の在り方や風俗を疑似体験できるというのは貴重な時間であるように思える。

音を記録に残すという魔術は過去からの素敵な贈り物である。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?