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雑文(77)「羊のいらない枕」

 じゃじゃまる、ぴっころ、ぽーろりー
 っていうメロディー、というか歌詞? を何度繰り返したかわからない。
 里帆の頭の中で、それは羊の数え歌よろしく、じゃじゃまる、ぴっころ、ぽーろりー、が昔から羊に取って代わって安眠を約束していたが、最近仕事が忙しく幼い頃の里帆が目を瞑って唱えていたおまじない? は最早効果がない。
 たとえばだが、泥酔して月平均二百万円を稼ぐ小太りの売れっ子芸人を的にして、泣き叫んで嫌がる彼に殺傷能力の低いエアガンを発砲すれば、里帆はぐっすり寝付けるだろうか。
 里帆は否定した。
 マイ枕を抱き、里帆は左右に首を振る。
 どれもがよい枕だが、匂いだって硬さだって肌触りだって、里帆好みの枕だが、どれもが里帆を寝かせない。朝方まで里帆を寝かせず、夜明けにようやく里帆を寝かせるが、たった数時間寝ても足らない。
 日替わりで枕を替える。が、里帆を安眠させる枕に中々出会えない。出会いはいい感じでも実際寝ると本性を剥き出したか、里帆を朝方まで寝かせない。
 タータン柄の枕だった。
 それは他の枕と違った。第一印象が好印象だが、いざ寝てみると本性を露わにする他の枕と違って、第一印象こそ普通だが、寝心地はまったく違った。包容力というか、安心できる親しみ深さのある枕だった。
 ある晩のことだ。仕事で嫌なことがあって悔しみ涙を流したある夜だ。他の枕なら里帆の気持ちなんか無視して朝方まで寝かせないが、タータン柄の枕は違った。

 泣けるときは泣いていいんだよ

 救われた気がした。家族にも相談できないことをタータン柄の枕は察して、里帆を気遣った。里帆はタータン柄の枕に顔を埋めて、わんわん泣いた。悔しくて悔しくて、わんわん泣いた。タータン柄の枕は泣き喚く里帆を黙って抱擁し、気付けば里帆は泣き疲れて朝方までぐっすり、意識を失ってタータン柄の枕を抱いたまま眠った。

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