お題⑥

さよならの前に覚えておきたいことはなんですか。
湿った枕に頬を擦り付けて眠る夜が問いかけてくる度に朝日が憎たらしく思える
君が死ぬならなんだっていいや
笑顔の裏の棘が隠せていない君はなんて優しい人だろう
夏の匂いが鼻先を掠める度に、うだるような暑さの中で震えていた肩が脳裏に浮かぶ
愛おしい、と初めて感じた時には全てが終わっていた
どうにもならない仮定の話

目の前で揺らぐ金魚の尾ひれが高い笑い声と共に遠ざかっていく
手を伸ばすことも叶わずに空を仰ぐと塩っぱい雨が降り注ぐから目を閉じていよう、ほんの少しだけ
おやすみなさい、良い夢を
なんて言ってもらえるほど子供じゃないから後ろを振り返ることが増えた

失くし物は風が攫っていったんだろう、どうか美しいままでいてください
何一つ忘れられないさよならを置いて行く君の目が見えなくなればいいと思った

もう二度と同じかおで笑えないのなら透明人間になりたい


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お題
「さよならの前に覚えておきたい」で始まり
「透明人間になりたい」で終わる

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