お題④

あなたはいつも笑うから、私は何も言えなくなる

夜を映した濃藍の淵に佇んで白い息を吐く
晴れていれば澄んで輝いているはずの水面も、時折白銅色にぼんやりと揺らぐばかりだ

いっそ沈んで溶けて、消えてしまえたら
あなたと分かり合えるだろうか

湖を綺麗だなんて
どれだけ澄んで見えたとしても、掻き回せば途端に濁った水で溢れかえるのに

そう言ってわらったあなたの顔が焼き付いてじくじくと疼く
あの時も、結局何も言えなかったのだから

自分を憎むあなたはいつだって、その水底を覗かせてはくれなかった
誰にも向けない刃はいつだってあなた自身を貫いていたこと
もっと早くに気付けていたら、或いは

水底で眠っていた貝は
今はもう殻でしかない

揺らぐ水面を眺めてあなたの言葉を反芻する

それでもその水が、
あなたを満たすものが濁りきって
元の美しさを取り戻せないなんて
そんなことはないのだと、あなたは美しいのだという想いを伝える術はなかった



━━━━━━━━━━━━━━━
お題
「あなたはいつも笑うから」で始まり
「想いを伝える術はなかった」で終わる

#詩 #自由詩 #現代詩 #詩のようなもの #小説 #短編小説

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?