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小さな象徴 - 未来のためにできること -

「あ、すみません。あの、オムツ替えの台がここにしかないらしくて、、すぐ出ていきますんで」
お店の人に案内されたという男性は、女性トイレで目が合うなり、慌てて私にそう言いました。
「ゆっくり替えてください。私も子どもが2人います。大変ですよね」
「すごいなぁ。本当は、もう1人、ほしいと思っていたんですけど、うちは無理そうです」
男性は、慣れた手つきでオムツを替えると、小さな子どもを連れ、その場をあとにしました。

よく、未来を変えるのは「よそもの、わかもの、ばかもの」だといいます。その真偽は不明ですが、「わかもの」と呼ぶには少し歳をとってしまった私でも、小さな心の変化を生むことができるときはあるようです。
先日、地方のワークショップに参加しました。
テーマは城の再建。参加者は40名ほどで、役所職員、建築家、学芸員など、職種は様々。
そんななかで私は、ただ育休中の孤独感から、なんとなく参加してみただけの素人、「ばかもの」でした。そして、生まれも育ちもその地方ではない、「よそもの」でもありました。
数ある論点のなかでも、バリアフリー化と完全復元とのバランスについて、特に時間が割かれたのは、土地柄でしょうか。配慮の対象は主に、車椅子の高齢者でした。
再建後に存続するためには、次世代が訪れ、関心をもち、受け継いでいく必要があるだろうと思っていた私は、「こうしておけばベビーカーも来やすいでしょう」と、おまけのような一言が発されたところで、口が勝手に動きました。
「ベビーカーで城内に入れても、授乳やオムツ替えをする場所がないままだと、困りませんか?」
どことなく漂う、ばかもの、よそものが、何か言ったぞ感。
おでかけの際、上の子が行きたがる施設に、下の子のお世話をする場所がなくて困ることはよくあります。訪れた人が、やむを得ず、トイレでの不衛生な授乳を余儀なくされるのは避けたいと思いました。
「費用が、、」
予算の優先順位は、高齢者向けの設備>子ども向けの設備なのでしょうか、、と言ってしまいそうになったとき、数名がその場を救ってくれました。
「お金より大事なことです!」「だれも気づきすらしなかった!」

少子化に悩まされている日本。あのとき、女性トイレで出会った男性が、もう1人、子どもを育てることを諦めた理由は何だったのでしょう。
オムツの交換台がないことは、子育てに目が向けられていない現状の、小さな象徴にすぎません。様々な分野で少しずつ、子どもに優しい環境が増え、「わかもの」の誕生につながると嬉しいなと思います。

#未来のためにできること
#コンテスト応募
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あとがき

授乳室が軽視されてしまうことがあるとしたら、その理由の1つに、そこが「食事の場」だという認識の有無があると思います。授乳室=お母さんのプライバシーを守る場所=女性や子育て世代の優遇、と思われることがあるからです。しかし、授乳室は赤ちゃんのためのもの。3、4時間ごとの母乳やミルクが、赤ちゃんの生命線なのです。

街で見かける授乳室には、もう一声、配慮があると嬉しいタイプがあります。
・椅子だけでお湯がない(ミルクを作れない、母乳とミルクを混合にしている人もいる)
・お湯だけで水がない(お湯で溶かしたミルクを冷ませない)
・オムツ交換台やお湯のある場所に男性が入れない(授乳のための個室だけでなく、すべてのエリアで男性の立ち入りを禁止しているため、男性がお世話をできない)
小さなことでは、オムツ用のゴミ箱がない、ハンドソープがない、などの不便があるところもあります。「昔は授乳室なんてなかったのだから、これくらい我慢しなさい」と思う人もいるかもしれません。でも、嫌なことを改善していかないと、どんどん少子化は進んでしまいます。

人口の多い高齢世代の人にとって必要な設備は、重要視される傾向にあります。しかし、少ない人口で、経済的に悩みながら社会を支えている現役世代や、私たちの老後を支えてくれる子ども世代が暮らしやすい環境を整えることも、何十年、何百年後の未来のためには、大切なことだと思うのです。

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