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オシャレ偏差値が高すぎる。マックイーン主演『華麗なる賭け』

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黒のスーツとハットを身にまとった小太りの男がホテル一室に入る。部屋に入るとあたりは真っ暗。突然ライトが照らされ、男の視点奪われる。その直後、「仕事は一時間。ただ運転するだけだ。報酬は5万ドル」部屋の奥から変声機を通した男の声が聞こえる。小太りの男は「ちゃんとお金が貰える保証はあるのか?」と質問する。変声機を通して男は答える。「信用するだけだ。嫌なら出ていけ」

 『華麗なる賭け』は、スティーブ・マックイーン主演、ノーマン・ジュイソン監督、ユナイテッド・アーティスツ配給の座組で制作された1968年の作品だ。ノーマン・ジュイソンは過去に『シンシナシティ・キッド』でもタッグを組んだ実績もある。しかも、前年には『夜の大捜査線』のアカデミー賞受賞で大きな話題を呼んだ。旬な監督と、大スター・マックイーンが組んだ本作はまさに大味のエンタメ超大作といえる。実際、日本でもヒットを飛ばし、1968年外国映画年間配給収入ランキングでは8位にランクインしている。

 大富豪のトーマス・クラウン(スティーブ・マックイーン)は実業家の傍ら、ハーバード大卒の天才的な頭脳をつかって完全犯罪を遂行する裏の顔を持っている。ある日、クラウンは5人の男を雇い、ボストンの銀行の襲撃を指示し、266万ドルの現金を手にする。目撃者は32人も居たが、指紋も残されておらず、容疑者の目星も付かない。絶望的状況に陥ったボストン警察は、乱暴な調査で悪名高いが凄腕の保険調査員のビッキー(演、フェイ・ダナウェイ)に調査を依頼する。ビッキーはすぐにクラウンを犯人と見抜き、彼に接近するのであった。

 銀行強盗の一連の流れは淡々と描かれる。5人の男は各々の業務を手際よくこなし、焦りもせず、ミスも侵さない。あっという間に現金を手に入れた主人公クラウンが自宅で高笑いするシーンはまさに敵なしの天才犯罪者だ。
 しかし、もう1人の天才・ビッキーはクラウンの裏の顔に気づくと、彼に接触し「あなたが犯人だわ」と宣戦布告する。天才VS天才の頭脳戦のサスペンスフルの展開になると思いきや、クラウンの自宅で始めるチェスの攻防を経て、映画はラブロマンスへと変貌していく。

 追うもの、追われるものの立場でありながら惹かれ合う2人の愛情を描くロマンティックな物語だ。「なぜこんな恵まれている環境を台無しにするようなことをするの?」ビッキーの問いにクラウンは答える。「金が目的ではない。華麗なる賭けなんだ」

 1968年は同じくフェイ・ダナウェイ主演の『俺たちに明日はない』や『卒業』などアメリカン・ニューシネマが到来した時代だ。現実社会はキング牧師やジョージ・ケネディ大統領の暗殺事件が起こり、殺伐した時期でもある。そんな最中、本作は浮世離れした映画に映っていただろう。

 しかし『大脱走』『ブリット』のようなシリアスで硬派な役と違って、本作のマックイーンはいつもと違う顔を見せている。ゴルフを嗜み、恋にうつつを抜かし、犯罪をすぐに見抜かれ、女子を食事に誘いまくる色男を演じているのは珍しい。

また、本作はファッション面でも後世に語り継がれている。マックイーンのスーツはダンディでクールであり、ダナウェイの60年代ファッションはヘプバーンやドヌーヴのようなファッションアイコンに引けを取らない。最高にスタイリッシュだ。ガジェットもこだわり抜かれている。

マックイーンがビーチで乗り回すバギーや、ダナウェイの車として登場するフェラーリなど洗練されたディティールもにくい。技術面でも、劇中で多用されるスプリットスクリーン(画面が複数に分割されて映される映像表現技法)が印象的だ。ブライアン・デ・パルマや初期のタランティーノの作品、海ドラの『24』などでも使用されている手法だが、1968年にマックイーンを分割する演出は先進的である。『華麗なる賭け』はオシャレ偏差値がすこぶる高い。再評価されるべき作品の一つだ。


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