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その拳になにを込めるか「イップ・マン外伝 マスターZ(原題:葉問外傳 張天志)」感想

ユエン・ウーピンは映画監督としてもアクション監督としても偉大な存在だが、なにより凄いのが人材発掘の神であるというだ。
シリアスな功夫映画で燻っていたジャッキー・チェンの本質を見出し、彼を一躍スターに押し上げた名作映画『蛇拳』と『酔拳』を監督したのはユエン・ウーピンである。
さらに今最もDOPEな武打星ドニー・イェンを映画の世界へと導き、自身のアクションチームで一から鍛え上げたのもユエン・ウーピンだ。
そして今、また新たにユエン・ウーピンが自身の愛弟子マックス・チャンを新たなスターダムへと押し上げた。
それが『イップマン外伝 マスターZ』である。

過去のマックス・チャン主演映画レビューはこちらをどうぞ

かんそう

超おもしろかった。アクション超やばかった。
本作はマックス・チャンをはじめミシェル・ヨー、シン・ユー、デイヴ・バウティスタ、そしてトニー・ジャーなど。様々なアクション超人を連れてきているのだが、彼らの身体能力が軒並み200%引き出しており、アクションがとんでもないことになっていた。
技巧を極めたスピード感ある動きが全編に渡って繰り広げられるのだが、その中に一瞬呆気にとられるほど豪快で外連味のある動きが炸裂し、時折脳の処理が追い付かなくなる。
その筆頭が序盤で繰り広げられるトニー・ジャー戦である。
映画が始まったばかりで脳味噌がまだ温まってない状態で唐突に勃発さかたので正直内容がよく思い出せない。だが、超凄かったことは覚えている。

また我らがレジェンダリー、ミシェルの姐御(本編でもそう呼ばれてる)がマックス・チャンとばりばりアクションしていたのも感涙ものだ。マックス・チャンといえばグリーン・ディスティニーでミシェル・ヨーのスタントダブルをしていたことも有名なので、そんなミシェル・ヨーと主役として本格的に戦うのを見ると、彼がようやく俳優として成功を手にしたのだと実感する。

そしてデイヴ・バウティスタは言わずも知れたガーディアンズ・オブ・ギャラクシーであり、プロレスラーとして身体能力も折り紙つきだ。
またバウティスタはジェームズ・ガン監督が過去のツイートで問題になったとき、業界が周囲の出方を伺う雰囲気になったとき真っ先に声をあげた真の男だ(個人的にガン監督を擁護するつもりはないが、誰もが顔色を伺うなか真っ先に恩義のある男のために声を荒げる姿を見て超凄いとおもった)
プロレスラーという経歴にこだわらず、俳優としてストイックな視線と情熱を持っている彼は、本作でも素晴らしい演技と、鋼鉄の如く破壊力の高いアクションを見せてくれる。はっきり言って最高だった。

そして個人的に驚いたのがシン・ユーである。
シン・ユーは超最高だった。アクションが予想以上にたっぷりあるのも最高だったし、ドラマ面でも大活躍だった。
結構シリアスな本作でも彼がいるおかげで笑顔になれ、一種の清涼剤としての役割を果たしていた。

そんな多彩な俳優陣が登場した本作だが、さすが人材発掘の神が監督しただけあってその存在感が存分に引き出されており、魅力的なキャラクターがストーリーをより熱いものにしていた。
そして超熱いドラマと超絶アクションが交差した瞬間、エモーショナルと超絶格闘の特異点が発生し、もうアクションが凄いから泣いているのかドラマが熱いから泣いているのかよくわからないことになった。とにかく言いたいのは、マスターZは最高だということである。

張天志というキャラクター

いまさらだが本作はドニー・イェン主演シリーズ「イップマン」のスピンオフ作品である。
前作でイップマンに敗北し、全てを捨てた張天志。
そのキャラクターは(スピンオフが作られるくらいなので)超魅力的である。
基本はむっつりしており、心の中に鬱屈したものを抱えたダーティな張天志は、息子の前になるとコロリと風のように爽やかな笑顔を浮かべるパパとなる。このギャップが凄い。
また張天志という男はプライドが高く、正直大人としてどうなんだというくらいキレやすい(本作ではいい方向に作用しているが)。
必要とあらば容易に悪事ともとれる行為に手を染め、本気でキレれば即暴力。おかげで本作は『かちこみ!張天志』という邦題がついてもおかしくないレベルのかちこみっぷりが見れる。
しかしそんな心に暗い部分と、ほんの少しの青臭さがある張天志だからこそ闇の深い現実が広がる本作においてダークヒーローに成り得て、一度全てを捨てた男が己を見つめ直し、再起するドラマに説得力が生まれるのである。
張天志はドニーさん演じるイップマンが最早ドニーさんではなくイップマンであるように、張天志もまたマックス・チャンではなく張天志である。
次回作も(あればだけど)楽しみくらい魅力的なキャラクターだった。ありがとう張天志。

マックス・チャンのエロさについて

自分は度々マックス・チャンのエロさについてnote上で語ってきたのだが、本記事でもそのことに触れねばなるまい。
いや当然マックス・チャンのエロさは健在なのだが、やはり人材発掘の神ユエン・ウーピンによってそのエロさは存分に引き出されていた。
ストーリーの流れで張天志がとある役割をやらされるのだが、それも”わかっている”としか言いようのない役割であり、かなりエッチ。
というかその顔面で超凄い動きをするだけで色気が凄まじいのだが、本作では超凄いアクション設計と演出のおかげで、拳ひとつ振るう度に色気の風が頬を撫で、色気4DX状態だった。
あと中折れ帽子に指だし手袋のトニー・ジャーもエロかったと思う。

まとめ

ユエン・ウーピンがインタビューでマックス・チャンのことを「ジャッキー・チェンやジェット・リー、ドニー・イェンとも違った個性をもったアクションスター」と評していたが、それを聞いてとても嬉しくなった。
マーシャルアーツ系の俳優はその数が少ないせいか、メディアからよく○○の後継者という形容をされがちである(最近ではウー・ジンのことをジャッキー・チェンの後継者と、メディアどころかジャッキー・チェンもそういっていた)
けど実際にトップに立つ俳優はそれぞれ唯一無二の個性を持っており、ジャッキー・チェンがどう言おうとも(恐らく彼自身が理解しているように)ジャッキー・チェンの後継者は誰もいないのだ。何故ならあのジャッキー・チェンの個性は唯一無二のものであり、誰にも到達できないものなのだからだ。
そしてマックス・チャンはジャッキー・チェン、ジェット・リー、ドニー・イェン、ウー・ジン他トップクラスの武打星同様唯一無二の個性を持っている。
それは当然アクションだけではない俳優として包括的なものなのだが、そんなマックス・チャンの個性が、本作では人材の神ユエン・ウーピンの手によってより高められていたと思う。
この作品はまさにマックス・チャンの代表作であり、同時に最高傑作と呼べるものである。

いや本当に超よかった。楽しかった。最高だった。
熱いストーリーに目を疑う超絶アクション。その分量も満足感のある割合であり、まさに完璧な功夫映画だった。大大大傑作。
ぜひ全人類に見て欲しい映画である。そして世界には俳優マックス・チャンがいるということを知ってほしい。

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