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小野耕資「政治に巣食う商人を許すな」(『維新と興亜』第6号、令和3年4月)

 「日本の賃金水準がいつの間にか経済協力開発機構(OECD)の中で相当下位になっている」。
 日本経済団体連合会(経団連)中西宏明会長の連合との会議での発言である。これを受けてネットでは、「他人ごとで自覚がないのか」とか「経団連のせいだ」といった意見が相次いだ。当然である。経団連を中心に、派遣社員等非正規雇用の活用など、人件費抑制策ばかりやっていたから、このような結果になったのだ。そもそも経団連は長年法人税を下げ、消費税を上げるよう政府に意見具申してくるなど、日本を破壊する提言ばかり行ってきた「悪の枢軸」である。かつてネトウヨの間では「朝日新聞の逆を言えばよい」なんてことが言われたこともあったが、あえて言うなら「経団連の逆を言えばいい」。それだけで日本経済は現状より少しはマシになるだろう。
 賃金の話に戻ろう。令和元年における日本人の平均年収は三万八六一七ドルだったが、米国は六万五八三六ドル、ドイツは五万三六三八ドルと大きな差を付けられている。韓国ですら、四万二二八五ドルと、すでに日本を追い抜いている。
 日本人の賃金は米国の六割程度しかなく、韓国よりも低いというのが偽らざる現実である。いまや日本は平均年収でOECDに加盟するアジア諸国の中では最下位に落ちた。もちろん韓国の方が失業率が高いなど一概に比べられないところもあるが、ここまで低迷しているとなると、経済政策の抜本的見直しをする必要があるのではないか。
 日本はかつては先進国でもトップクラスの賃金を誇っていた。それが、いまや先進国では最下位クラスである。その原因が非正規社員を増やして賃金をどんどん抑え込んできた政策にあることは疑いない。特に小泉内閣以降、竹中平蔵氏をブレーンに起用し、派遣労働の事務使用を解禁したころから、日本の雇用は崩壊し始めた。
 この間跋扈したのが「プロ経営者」なる人々である。日産のカルロス・ゴーン氏や日本マクドナルドの原田泳幸氏等が有名だ。確かに彼らは自らの企業を一時的に回復させた。しかし彼らがやったことは短期目線のコストカット路線である。結局はそのような経営が長続きするはずもなく、その後化けの皮が剥がれる結果となった。
 そのあおりをもっとも食らったのが若年層である。二十年前の三十代の年収は五百万円~七百万円台がボリュームゾーンであった。ところが現在では三百万円~四百万円がボリュームゾーン。単純比較で二百万円ほど下がった計算になる。この二十年間で若者は貧困化したのである。派遣労働を行い低賃金労働を増やせば、それと競争になる正社員層の賃金も下がっていく。それがこの結果である。これでは少子化も加速する一方だ。新自由主義政策が若者の未来を破壊したのだ。このままでは近い将来、中国や東南アジアに日本の若者が出稼ぎに行くことになるだろう。
 日本人の賃金が上がっていないのは、バブル崩壊以降、日本経済が成長を止めてしまったからである。その原因の一つが、公共事業悪玉論により政府が公共投資を控えるようになってしまったからである。偽りの財政危機が宣伝され、消費税は増税され、介護保険など社会保険の自己負担率は上がる一方、企業は政治に圧力をかけ、法人税や所得税などの減税措置を勝ち取ってきた。その結果が今日の惨状である。政府の積極的な公共投資と、国内の貧富の格差を抑制する政策は必須である。国民の将来を見据え、長期的、公共的な目線から国内産業に投資を行っていくことが絶対に必要なのだ。愛国心の面から見ても、格差は国民の一体感を損なう。是正されなければならない。
 明治時代の言論人陸羯南は次のように述べた。
 「国を誤る者は紳商なり。国を売る者は紳商なり。後世日本国を亡す者は其れ此の紳商ならん。紳商は国民の共敵なり。紳商除かざれば国振はず」。 
 紳商とは政府と結びついた商人のことだ。明治時代の人は本質を見抜いている。商人が政治に口を出し始めると碌なことにならない。政治に巣食う商人を許すな。国民の敵だ。

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