不死鳥の歩み

「紅炎の鳥」という、不死鳥をテーマに作られた曲がある。
仕事に行く時には、ほとんど必ずといっていいほど私はその曲を聴いている。
不死鳥が燃え尽き、そして灰の中からまた生まれ飛び立つ様を表現した曲で、主に吹奏楽団が演奏する曲である。

初めて聴いたのは、吹奏楽部でトランペットを演奏していた妹の応援に、吹奏楽コンクールに行った時だった。
妹の学校ではなく何処かの学校の吹奏楽部が演奏し始めたのを聴くや否や、私は曲に魅入られてしまった。静かで、不思議なハープの音が今にも燃え尽きそうな不死鳥の羽搏きになり、その後突如和太鼓が激しい炎となって全てを焼き尽くす。そして、力強いホーンの音と共に不死鳥がその灰の中から輝きを放ち蘇って、大空へ飛んで行く。その様が音からはっきりと見えてきて、私は涙を流した。

私の仕事は、自分自身をいつも全て焼き尽くし一度無になって、体の上に着るだけでなく、心の奥底まで着ることが要求される仕事だと思っている。
そんな仕事に臨む時、ハープの音がポロン、とこぼれるように鳴って、マリンバがざわつき始め、私の足が一歩出る度に、自分の心が今に燃え尽きようとしている不死鳥になっていく、その時悩んでいることや辛い気持ちを含め一切を背負って燃え尽きる場所を探している不死鳥の姿のようになる。そしてある一歩が地に着く時、掛け声と共にバッと全てが燃え盛り、和太鼓を激しく打つ音がゴオゴオと燃える。
そして、燃え尽きた白い灰の中からまっさらな心として、なんの迷いもない、白く堂々とした歩みをまた進めることができるのだ。

私はこうして仕事場に着くと、心から服を着て、それそのものとそこに込められたものを表現をすることができる。一緒に仕事をしている人にも普段との違いはわからないかもしれないけれど、自分にとってなくてはならない一曲と、仕事場への歩みなのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?