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エッセイ | 偶然が当然

「奇遇だね、何しているの?」私の目の前に、そんなことを言っている友人が立っている。

「待ち合わせ場所なんだから当然でしょ。それよりも遅れたことの謝罪を聞こうか」私はなるべく表情を変えずに口を動かした。

「それがさ、偶然乗っていた電車が一つ前の駅止まりでさ、まいっちゃったよ」友人はまだヘラヘラとしている。

「電車は決まったダイヤで動くんだから偶然ってわけはないでしょ」まったく困ったものだ。


別の日に出かけていると、バッタリと友人に出くわした。

「こんなところで会うなんて、こんな偶然があるんだね」と驚いて海外ドラマのようなセリフを言ってしまう。

それを聞いて友人は意地悪な顔になったあと「当然でしょ、何の約束もしていないんだから」と言った。

友人の態度には少しだけいら立ちを覚えたが、言っている内容についてはおもしろいと思えた。

確かに、何の約束もしていなければ偶然でない限り会うことはない。この偶然は当然に、起きるべくして起きたのだ。

「だけど、その態度はムカつく」と私は正直に友人へ言った。

「驚きはしたけどね。でも偶然だと思えばそんなものかって感じ」

偶然を特別に思わない友人が少しカッコよく思えたが、やはり偶然についてはもっとよろこぶべきではないかと思ってしまう。


当然のように起こる事象は、私と友人が互いに約束をして出会うようなことだ。

「○月○日にハチ公前」と約束をすれば、ほぼ確実に出会うことができる。ただし、約束をせずに私だけがハチ公前で待ち続けたとしても、ほぼ出会えないだろう。この2つは当然なのだ。

出会えるパターンで「出会えない」となるのは何かが起きて出会えなくなることだ。この「何か」にはいろいろな要素が考えられる。偶然の事故か、偶然の病気か。たくさんの偶然が考えられる。

出会えないパターンであっても「出会える」こともあるだろう。偶然近くにいたら見かけたから。偶然他の人と待ち合わせをしていたから。こちらも多くの偶然があるだろう。

当然起こることよりも、偶然の方が多いのだ。たくさんある偶然の中から、どの偶然に出会えるのかが重要だ。

当然のように起こることの方が珍しい。世の中は偶然ばかりだから。



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