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エッセイ | オム大陸

日々の生活を送っている中で「たくさん食べたい」と思うことがよくある。テレビ番組では大盛りの料理を提供するお店を特集しており、ネット記事でもそれに似た内容が見られる。しまいにはYouTubeでも大盛りの料理を食べる動画がアップされ、私の頭の中には大盛り料理だけになっていた。

大盛りの料理を食べたいと考えても、私がそれを食べられるかどうかが問題だ。普段の食事ではあまり食べていないのだから、急にたくさんの食事を食べられるわけがない。だが、すごくおなかが空いている朝なら食べられるかもしれない。昔はたくさん食べていたのだから。


学生の頃、私はオムライスとカレーライス、ラーメンを食べて生活していた。朝起きたらオムライスかカレーライスを食べるのだ。普通の大きさではなく、かなり大きなサイズだったと思う。

ケチャップライスやカレーに使うご飯は1合半も使っていた。1日のエネルギーを朝食で全て補おうと考えていたのだ。

同じ研究室の友人が私の家に泊まった日も同様だった。その日も朝から1合半のケチャップライスを作り、その上に焼いた卵を覆いかぶせたものを食卓に運んだ。私にとってはいつもの光景だ。

しかし、友人にとっては異様な光景だった。

「朝からこんなに食べるの? やばいね」友人は明らかに引いていた。
「いつも朝ごはんはたくさん食べているからね。同じの作ろうか?」そう言うと「見ているだけでおなかいっぱい」と言われ、前日に買ってきていたであろうパンを食べ始めた。


お昼に研究室でカップラーメンを食べていると、講義終わりの友人がやって来た。
「朝ごはんはあんなに食べていたのに、昼はそれだけなんだね」
「まだ朝食の名残があるからね。あまり食べなくてすむんだよね」そう言いながら、普段食べている醤油味のラーメンをすする。

「じゃあ夜は何を食べているの?」友人もカップ麺にお湯を入れながら尋ねてくる。
「納豆と豆腐スープ」
「朝はあんなに食べているのに、夜は大豆だけかよ」もっと上手に食べられるでしょと言ってくる。


そんな話をしていると別の研究生も研究室に入ってきた。すると、友人が「これ見てよ」と言ってスマートフォンの画面を見せている。

「すごいねこれ。大陸みたい」その研究生は驚きながらも笑っていた。
「大陸はいいね。オム大陸だ」そう言って友人も笑う。

私はもしやと思い、「それ今朝の写真? いつ撮ったの?」と友人に詰め寄る。
「ケチャップを取りにいった時に」友人は『オム大陸』と文字を入れた写真を見せてきた。
「写真撮るならケチャップをかけた差し色のある状態で撮ってよ」
「差し色がないことによって特異性が際立つんだよ」友人は分かってないなとでも言いたげな顔をする。
大げさにあきれた雰囲気を作りながら「こうやって情報操作がされていくんだ」と抗議した。

その後、私の所属する研究室内では「オム大陸」の写真が出回り、事情を知らない教授と研究生を困惑させたのだった。



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