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エッセイ | シトラスさがし

午前中からお昼頃にかけて用事があったが、それも無事に終わり帰路へとついている。時計を見るとまだ15時前のため、このまま家に帰っても普段通りの生活をしてしまうと思い、最寄駅のひとつ手前で降りることにした。

ずっと工事していた場所に商業施設ができており、工事中には近くを通っていたのだが竣工してからは来たことがなかったため、立ち寄ることにした。

フロア案内を見ていても特に興味をひかれるお店はなさそうだった。いくつかレストランとカフェがあるのと、フィットネスジムやサロンが入っている。

ファッションや雑貨系の店舗はひとつも入っておらず、少しつまらない印象だった。


1階にあるカフェやパン屋を眺めながら歩いていると、コーヒー豆を販売している店舗を見つけた。店名だけだとカフェかと思ってしまったが焙煎所のようだ。せっかくだから立ち寄ってみることにし、店内へ入った。

店内は狭く、壁際にずらっとコーヒーの生豆が並んでいる。私がよく行くお店とは違うため、説明文にある酸味や苦味の数値がピンとこない。

私は昨年末に飲んだベリー系のコーヒーが好きで、コーヒー豆を販売しているお店に寄るたびに探してしまう。ここのお店も例外ではなく探してしまった。

すみからすみまで探したが、このお店には置いていないようだった。


あまり期待はしていなかったのだが、見つからないとなれば少し残念な気持ちになる。

「何かお探しですか?」声がした方向を見ると、私よりも背の低いスタッフが立っていた。

「ベリー系の豆を探していたのですが見つからなくて」そう言うと、今の時期は入荷していないと教えてくれた。

「ただ、こちらの豆なら焙煎を浅くすれば似たような香りがするかもしれません」スタッフが指さす豆を見ると「シトラス系の香りがします」と説明文のある小さなパネルが立っていた。

「シトラス系の香りって実は感じたことがないんですよね。実際にシトラスの香りがするわけではないんですよね?」つい私はそんなことをスタッフに尋ねてしまった。


若干スタッフは困りながら言葉を探しているように見える。
「ご自宅で1杯ずつ飲むのであれば感じづらいと思います。カッピングをするか、少なくとも2杯以上で飲み比べしないとわからないです」あとは経験ですと、苦笑いしながらスタッフは言った。

「カッピングはやったことがないですね。難しいのですか?」
「簡単ですよ。楽しむ分には」
「じゃあちょうど良いです。シトラスの香りを体験したいのでおすすめの豆を2つお願いします」私はそう言いながらピースサインの手をスタッフに見せた。

シトラスの香りを探すという新しい趣味ができてしまった。



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