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【創作小説】僕とおばあの49日間納骨チャレンジ【短編】

祖母とはもともと特別仲が良かったわけではなかったが、亡くなる前の数ヶ月、最も会いに行っていたのは僕だったと思う

志望校に合格したものの大学に馴染めず、友だちもできなかった僕。授業が終わればすぐに家か、バイトに行くだけの日々。

そんな折、祖母は余命半年と宣告された。
緩和ケアのため入院することになったが、僕の両親(祖母の息子夫婦)は共働きで見舞いに行くのもままならない。
最も暇な僕に白羽の矢が立ち、着替えや必要なものの差し入れは僕の役目になったのだった。

ある時、祖母があまりにも暇だというので、僕が使っていたiPadをプレゼントした。
それは高校入学の時に親からもらったものだったが、ちょうど新しいものに買い換えようとしていたので、祖母にお下がりしたのだった。

一通り使い方を教え、気に入りそうなアプリを入れたところ祖母はなんとYouTubeにハマった。見舞いに行くと YouTubeのチャンネルの話で盛り上がるまでになった。

それからほんの5ヶ月。祖母は亡くなった。
病院を片付けていた時、iPadの上に「たかゆきへ」という付箋が貼られているのを見つけた。たかゆきとは僕のことだ。少し震えたその文字は何度か見た祖母の文字だった。

電源を入れると、カメラロールの一番最後に動画があった。病室のソファに座る祖母がサムネイルだ。興味に駆られて僕は再生ボタンを押すと、突然元気な声が病室に響いた。
「どうもこんにちは!ババアチャンネルのおばあです!」
停止した。

どうした?どうした祖母。
僕が期待した動画とは方向性が異なるものが出てきた。妙な汗と動悸が止まらない。
僕は深呼吸をして、もう一度再生ボタンを押した。

「はい、今日はですね〜こちら!ドン。孫へのさいごのメッセージを送りたいと思います。あっ、さいごの「ご」は後ろじゃないですよ期日の期の方です。最後じゃなくて最期!そこんとこヨロシク(パチパチパチ)」
なんのこだわりだよ!!悲しむべきなのか笑うべきなのか、口角がひきつる。

「私がこの病棟に入院してから、毎日のように通ってくれた孫がいるんですよ。たかゆきっていうんですけど。実はね、たかゆきはYouTuberなんですよ。本人隠してるつもりなんだけど、バレバレなの!」
「はあっ!?」
思わず声が出た。いやいやいやいや、ちょっと待て。何故身バレしてる?

「それで、週に1回必ず月曜に動画をあげてるの。内容はすごい普通。」
「すごい普通」とわざわざ字幕付きで煽られた。

「でもね、毎週欠かさず続けていてもう50本くらい。それってすごいことですよね!たかゆきの良いところは真面目にコツコツ努力し続けられるところ。受験の時もそうだったわね。毎日コツコツ勉強してた。」
確かに僕は受験の時も基本的に受かる大学を選んだし、A判定をいかにキープするかに注力してきた。博打はしない。堅実に生きる。

「でね、おばあは思うわけです。この手堅くて真面目なたかゆきが、大学もなあなあでYouTuberもなあなあで、このままでいいのかしらと。もしも、お金と時間と発想を手に入れたら、一気に羽ばたくんじゃないかしらと。」
何を言い始めたんだ?

「ここに、100万円あります。さて、おばあには実は夢がありました。エジプトに行って生のピラミッドを見たかったんです。死ぬ前に行きたかったけどそれも叶わなくなってしまった。でもね、実は死んでから四十九日の間はまだ魂はこの世にとどまっているらしいのよ。だから、たかゆき、私が死んでから四十九日までの間に私の遺骨と一緒にエジプトに行ってピラミッドを見てきてほしいのよ。わからないことは今の時代ネットで調べれば大丈夫。それでもわからなかったら人を頼りなさい。ああ、百万円だけ持っていって遊びに使ったって、たしかに他の人にはバレないでしょう。でも、真面目なたかゆきならきっとやってくれるっておばあ信じてるから。」

動画はそこで終わっていた。動画に映っていた病室の金庫の中には100万円が本当にポンと置いてあった。帯付きの札は初めてみた。

口の中はカラカラに渇き、耳の奥はキーンとしていた。
どんな冗談だ?
海外に遺骨は持ち出せるのか?いや、そもそも家族がそんなこと許すわけがないのではないか?
しかし、頭の中は勝手に「どうしたらこの無理なミッションをクリアできるだろう?」と
考えを巡らせ始めていた。

面白い、面白いよ、おばあちゃん。
これを動画にして僕のチャンネルで投稿したら、再生数も上がるかもしれない。そんな打算的なことも頭を掠めた。

やるかやらないかは置いといて、できる前提で調べてみようか。まずはどうやって遺骨を持ち出すかだ。高揚した気持ちのまま僕は病室を後にした。

納骨まであと49日。


第二話
https://note.com/isomeshi/n/n0cb178de7b41

マガジン

https://note.com/isomeshi/m/mfc34568f954b

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