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ラムズデン卿の機転〝チノパン〟のルーツ

ラムズデン卿の苦悩

〜英国陸軍、純白のユニフォーム〜

1846年、インドに派遣されていた英国陸軍でのある出来事。

当時の彼らには、悩みがありました。

それはユニフォーム(軍服)が真っ白であること…

軍服の歴史を遡ると、白いズボンが用いられていたことはナポレオン軍の軍服などを見ても明らかです。

しかし…これでは、いざ戦闘行動を開始すると、敵から目立って一斉攻撃されてしまう。(そりゃあ、真っ白のズボン履いた大集団ですからね…(笑))

戦闘の際のカモフラージュには、最も不適切な色でした。

この不都合にひとりの男が憤慨します。

当時の連隊長、ハリー・ラムズデン卿です。

そして彼は機転を利かせ、驚くべき行動に出るのです…

...。

と言うことで、こんにちは。

今回は〝チノパン〟という愛称で、日常的に多くの皆さんに親しまれている、チノパンツについて、僕が愛用しているモノを紹介しながら、その「意外と深いルーツ」を探って行きたいと思っています。

では、早速僕の愛用の〝チノパン〟達の紹介から。

【いずれもBrooks Brothersのモノ 】
【色は左から、Navy・Stone・khaki・Olive・khaki】

チノパンツ、通称チノパンの正式名称は〝チノクロスパンツ〟です。

そして「チノ」の語源は「チャイナ」。つまり中国です。

しかしだからと言って、中国原産の生地で作ったから…という事ではないのです。

ここで、冒頭のインド駐留英国軍の話に戻りましょう。

当時、英国陸軍が採用していた、純白のユニフォームの不都合に憤慨した、連隊長ハリー・ラムズデン卿はなんと…

白の軍服を、コーヒーとカレー粉と桑の実を混ぜた汁を使って、インドの土の色そっくりに染めてしまいます。

もちろん、戦闘の際のカモフラージュのためにです。

こうして、巧みにインドの大地に溶け込むことに成功しました。

そしてこの時できた色が、後の〝カーキ(khaki)〟です。

カーキ(khakii)とはヒンドゥー語で「土埃」「土色」という意味です。

もっと厳密に定義するならば、当時の〝インドの土の色〟なんですね。

ちなみに…

上のこの色をカーキと呼ぶ人も多いと思いますが、正確にはこの色は、〝オリーブ・ドラブ〟と言います。

暗くくすんだオリーブ色のことです。

ドラブとは、淡い褐色や、黄褐色のことです。

とにかく、こうしたインドの戦場で軍人の咄嗟の機転から出来た〝カーキ色のズボン〟が現在のチノパンツの起源です。

そしてそれが、インドから中国へ輸出され、フィリピンに駐在しているアメリカ兵に広まったというのが、チノクロスパンツ(チノパン)のその後の歴史です。

「チノ」とは、スペイン語で「中国人」を意味します。

フィリピンは、アメリカ軍上陸以前は、長らくスペインに植民地支配されていましたので、そういった事からも、当時中国から回ってきたこの生地をそう呼んだのかもしれませんね。

ここからは少し専門的な話になって恐縮ですが、

細かく言うと、軍用に、特にアメリカ陸軍で採用されている生地は「ウエストポイント」と言い、日本では〝ウエポン〟と言う通称で呼ばれています。

(※しかしこれも和製英語で、アメリカの陸軍士官学校の名前から由来がきています。古着屋ではよく聞く単語ですね。)

アメリカでは、「ユニフォームツイル」と呼ばれ実際に軍服にも採用されています。

経緯ともに双糸を用いて、経糸を緯糸の2倍の打ち込みとする綾織物のことで、とにかく頑丈です。

似た生地に、バーバーリーのコートで有名な「コットンギャバジン」があります。

これを少し軽く、薄くした生地(糸を経緯ともに単糸に替える)が、僕らが日常的に愛用する「チノクロス」です。

ちなみにどうでもいい事ですが、「ウエストポイント」と「チノクロス」の見分け方は、綾目の向きの違いです。

一般的に、「 ウエストポイント」は向かって右上から左下へ流れる〝正綾〟で織られることが多く、

一方で「チノクロス」は、向かって左上から右下に流れる〝逆綾〟で織られることが多いからです。

【チノクロスの逆綾の拡大写真】

…と、ここまでつらつらと、マニアックな話を続けてきましたが、

一体何が言いたいのかと言うと、

日常の中で見慣れている、いや、とっくに見飽きていると言っても過言ではない〝チノパン〟という洋服でさえ、

語り出すとこの生地の起源や歴史、さらには色に至るまで、これだけの物語が詰まっていると言うことなのです。

服飾の世界は、本当に奥深いものなんですね。

だからこそ面白い。

こういったことを知ると、明日から〝チノパン〟の見え方が変わってきませんか?

【参考文献】

official AMERICAN TRAD HANDBOOK(オフィシャル アメリカン・トラッド・ハンドブック)

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日本の色・世界の色

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