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【投資】GPIFの日本株比率引き上げ、海外投資家に思惑(日本経済新聞)

今朝(2024年4月24日)の日本経済新聞WEB版での記事。224兆円を運用する世界最大級の年金基金、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が日本株の保有比率を引き上げるのではないか…という思惑が一部の海外投資家の間で日本株の買い手がかりになっていると。

記事中の思惑を抜粋してみると:

マクロ経済の分析を前提に投資する「グローバル・マクロ」型のヘッジファンドやアジアの政府系ファンドなど一部の海外投資家の間で「GPIFや国内企業年金が日本株の保有比率を引き上げるのではないかとの観測が浮上している」(野村証券の須田吉貴クロスアセット・ストラテジスト)という。

日本経済新聞WEB版より抜粋

GPIFは5年に1度、基本ポートフォリオを見直しており、25年度は新たなポートフォリオが適用される年にあたる。野村の須田氏は「今回はインフレ定着下で初めての見直しになるため、債券よりもインフレに強い株式の保有を増やすとの見方につながっている」と話す。さらに米系著名投資家が「今年はGPIFや国内企業年金、個人投資家が買い主体として日本株を押し上げる」との見立てを強めているという。

日本経済新聞WEB版より抜粋

GPIFの現在の基本ポートフォリオは、国内株式と外国株式、国内債券、外国債券の4資産でそれぞれ25%ずつを目安にしている。国内と外国を合わせた株式比率は50%で、ここに11%の乖離許容幅を加えても海外の年金基金と比べ高いとは言えない。

たとえば、運用額がGPIFと同じく200兆円規模とされるノルウェー政府年金基金は23年3月末時点で全体の7割を株式が占める。カナダ年金制度投資委員会(CPPIB)にいたっては、同時点で株式比率が85%だった。フィリップ証券の増沢丈彦株式部トレーディング・ヘッドは「海外投資家の目には、GPIFの株式比率に引き上げ余地があると映ったようだ」とみる。

日本経済新聞WEB版より抜粋

要は「現在のGPIFの日本株の配分比率25%、また海外株と合わせて計50%の配分は海外の同規模の年金基金と比較してもまだ低く、今年度の資産配分見直しで引き上げられてもおかしくはない」と。

GPIFの資産配分に関しては少し思うところもあるので、今回はそれに関して記しておきたいと思います。


現在の資産配分比率は絶妙

  • そもそも、現在の国内債券25%、外国債券25%、国内株25%、外国株25%という伝統4資産への均等配分、「根拠は薄いが政治的・対外コミュニケーション的に絶妙な配分」だと思ってます。

  • GPIFには賢い従業員もたくさんいますし、また資産配分の見直しの際には(おそらくは)外部の専門家の意見も取り入れながら、まずは各資産クラスの期待収益率、想定リスク、資産クラス間の相関を推定し、ポートフォリオ全体の目標リターン/リスクと照らし合わせながら、一旦は計算上の資産配分の数字は出しているでしょう。

  • ただこれくらいの規模の公的年金となると、対外的な説明に対する負担もかなり大きいと想像できます。国内債券の比率が高ければ「なぜ期待リターンがこんなに低い国内債券の比率がこんなに高いのか?」と問われますし、期待リターンの高さをもとに、外国債券、外国株の比率を上げれば、「日本は大事じゃないのか?」なんていう感情的な批判も出てきます。

  • どの資産クラスも「優劣をつけてない」「極めて政治的にバランスの取れた」、しかも「わかりやすく」「実際にはそれなりに成果も出ている」配分なのかな、って感じてます。

現在の配分に関する課題

しかし、現在のこの配分には課題もあるのかな…とも思います。

株の国内・海外比率

  • 1つは国内・海外の比率です。日本株25%とはいえ、220兆円の25%は55兆円にもなります。すでに日銀保有のETFとともに日本国内でも最大の日本株ホルダーです。日本株を売買するにしても、完全に機動性が失われている規模です。

  • かたや全世界の株式市場に占める日本株の比率は約5%(オールカントリーインデックスにおける日本株の比率)。つまり全世界の時価総額的には国内 vs. 海外比率は5:95と圧倒的に日本以外の比率のほうが大きいのに対し、国内 vs. 海外比率が50:50というのは、いくら"ホームカントリー"だといっても、バイアスが大きすぎかなと。

  • 市場に影響を与えずに、GPIF程度の規模の運用を受け止める流動性を考えると、極端な話、「国内株、外国株」という枠組みを捨てて、1つの「グローバル株」として配分し、(上記記事では日本株比率引き上げの思惑って言ってますが)むしろ日本株の比率は引き下げるべきなのでは?と感じてます。

発行残高ベースの債券運用

  • もう1つの課題は債券発行残高をベースとしたインデックスに基づいた債券運用です。債券の発行残高が大きい、ということはつまり借金が大きい国、企業ということです。それらの国が、「ではファンダメンタルズがいいのかどうか?」というと、必ずしもそうとは言えません。時価・発行残高に基づいた債券インデックスを用いた運用は、結果として「借金の大きい国や企業」の比率が大きくなる、ということになります。

  • この課題をもとに、例えば国のGDPの比率に応じて国別配分が決定されるファンダメンタル・インデックスなるものも開発されており、今後そういった指数の利用の検討、そして結果としては国内債券の比率引き下げも考えないといけないのかなと思います(だからといって、じゃあGDPが大きくなってきたインドとかの債券、増やすのか?っていうとそれも違うような気もしますが…)。

逆に日本株比率引き下げの思惑も?

GPIFは日本の国民のための将来の年金の準備金を運用している機関です。「ホームカントリーバイアス」があるのは当然ですが、現在の株、債券における国内 vs. 海外の50:50は、市場規模的に見ても国内比率が高すぎだと思いますし、それによってGPIFの規模の運用に支障をきたしているのでは?とも想像しています(勝手な推測ですが)。

個人的には、「日本株比率引き上げ」だけではなく、逆に「日本株比率引き下げ」の思惑も出てきてもおかしくはないのかな、と。でも、そうなったら対外的な説明も大変でしょうね。。。なので、落とし所は現状維持(笑)

#日経COMEMO #NIKKEI

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