見出し画像

モチベーションには三つある

日曜朝のX(旧Twitter)スペース読書会で、以下の本を取り上げました。

上のリンクからどのような本であるのかの要約を読むことができます。
私はこの要約を読んだだけなのですが、モチベーションが上がるパターンについて沢山書かれている本のようで、自分がどんな時にモチベーションが上がるのかに気づくきっかけになるかもしれませんし、他者のモチベーションがどんな時に上がるのかを知ることもできるので、その意味で価値ある一冊ではないかなと思います。

読書会では、この本に書かれていることからモチベーション全般の話に展開してゆきました。
モチベーションというと、近年耳タコになるくらい聞かされる言葉が「外発的モチベーション」と「内発的モチベーション」ですね。
この考え方は古典的ではありますが、現代でも繰り返し議論されていることではないでしょうか。

ただ、私自身はこの外発・内発という切り口ではない別の視点でモチベーションを見ていて、モチベーションには3つのパターンがあると考えています。
整理してお話ししましょう。

古典的モチベーション理論

3つのパターンについてお話しする前に、そもそもの「モチベーション」の始まりについて触れておきましょう。モチベーションという考え方がマネジメント理論の中で登場し始めるのは、第二次世界大戦前のことです。
産業革命後の大量生産社会の到来の中で、効率を追求するフレデリック・テイラー科学的管理法が生まれる一方、人間は機械や部品ではないので、別のアプローチが必要なのではないかという意見が出てきたのでした。

今回の本題から外れるのであまり詳しくは書きませんけれど、どんな考え方が出てきたのかを私の理解をもとに簡単に書き出してみましょう。

テイラーの科学的管理法に疑問が投げかけられたのは、1927年〜1932年にウェスタン・エレクトリック社(AT&Tの製造会社、現在はノキアが事業後継)のホーソン工場(米国イリノイ州)で行われた工業生理委員会(エルトン・メイヨーら)の研究からでした。

後に「ホーソン実験」と呼ばれるこの研究では、最初は照明の明るさを変えることで生産性はどのように上がるのかを実験していたのですが、そのうちに照明の明るさは実は関係なく(当たり前ですが)人間はもっと複雑で他の要因によって生産性を変化させるということでした。
ここで言う他の要因とは、感情や職場の人間関係・力関係という人間の特性と社会的動機のことで、この辺りから経営に有機的、人間的なアプローチが入ってくることになります。

その後、ダグラス・マクレガーとエイブラハム・マズローによるX理論・Y理論の研究により、人は労働を回避しようという生来の傾向があり働かせるには報酬と罰で統制する必要がある(言ってみれば飴と鞭ですね)というX理論ではなく、人は環境さえ整えれば自らより良い結果を出すために積極的に働くものであるというY理論(実際には6つの基本原則があるのでかなり端折って書いています)が1960年に提唱され、人間的アプローチに立脚したマネジメントの重要さが認知され始めます。

同じ頃、1959年にはフレデリック・ハーズバーグによる「The Motivation to Work」という書籍においてそのものズバリのモチベーションが取り上げられます。ここで、モチベーションにはその要因によって2種類あると説かれます。

一つ目は衛生要因
職場環境、給与、地位、雇用の補償といったそれがないと不満が発生するという、いわば仕事場における「衛生上」の理由です。
つまり、給与が低かったり、明日クビになるかもしれないと認識してる状況であれば人は働こうとはしない、みたいな話です。

もう一つが動機づけ要因
達成感、人から認められること、仕事の性質そのものへの満足感、責任感、進歩、個人的な成長という、いわば「前向きに頑張ろう」と思うための理由です。この動機づけ要因は衛生要因が担保されていて初めて機能すると考えます。

この辺りはマズローの欲求階層論の考え方にも影響されていると思いますけれど、ハーズバーグの言葉では「人間には2種類の欲求がある。苦痛を避けようとする動物的な欲求と、心理的に成長しようとする人間的な欲求である。」となっていて、衛生要因とか動機づけ要因という言い方はしてはおらず、おそらくは後世になってそういう呼ばれ方になったのだと思います。

そして、この衛生要因と動機づけ要因をリビジット(再訪)して、分かりやすく取り上げたのがダニエル・ピンク氏の2009年の著作「モチベーション3.0(原題:Drive)」でした。

分かりやすいようにTEDの講演のリンクを上に貼り付けましたが、この中で彼は「外発的モチベーション」として金銭的な報酬を、「内発的なモチベーション」としてAutonomy(自治性=自分のやり方でやらせてもらえる裁量があるか)、Mastery(習熟=自分が成長実感を得ることができるか)、Purpose(志や大義=自分自身を超えるより大きな目的のためと思えるか)を挙げています。
外発、内発という言葉を頻繁に聞くようになったのは、この本の後ぐらいかもしれませんね。かなり話題になった本ですので。

モチベーションの3つのパターン

ダニエル・ピンクの本が出る7年前、私は事業部門から人事に異動しました。
人事のことについて何も知らないに等しかった私は、管理職研修にオブザーブ(まだ管理職ではなかったので)する中で前項に書いたマネジメント理論の歴史を学び、それに魅了されました。

その一方で、自分自身の経験であり、友人や職場で起きていることを見るとモチベーションには古典的マネジメント理論にある「機械的な見方vs人間的見方」とは違う、もっともっと実践的な切り口があり、それはモチベーションのスイッチや切り替えをどのように行うかに関係してくるのではないかと考えました。

モチベーションの切り替えスイッチ。それが入る時のパターンには以下の三つがあると私は考えたのです。
1)動き出すためのモチベーション
2)続けるためのモチベーション
3)持ち直すためのモチベーション
順に見てゆきましょう。

動き出すためのモチベーション

イメージを持ってもらうために、図を使って説明したいと思います。
動き出すためのモチベーションというのは図で表すとこんな感じです。

緑が現在地、水色の線はそこまでの軌跡、青い矢印が動かそうとしてるベクトルです。

縦軸にエネルギー、横軸に時間を取ったグラフの中に、緑の丸があります。
緑の丸は現在地を表しています。
上の図の状態では緑の丸は動いていない、止まっている状態です。
青い矢印はこれから動かそうとしているベクトル、方向性を示していると考えてください。(動画で見せられると良いのでしょうが、すみません)

すなわち、動き出すためのモチベーションとは、その場に留まっているものや人を前に動かす、ないしは行動に駆り立てるための動機のことを指しています。

何かを始めるには力(パワー)やエネルギーが必要です。その場に止まればエネルギーは使わないで済みますし、動くことがリスクになることもあるでしょう。だから動機、まさしく動くきっかけとなるような何かがそこには必要です。

物体でも人でもそうですが、動き始めると惰性や慣性が働きますのでそれほど力は要らなくなるのですが、動いていないものを動かすというのは動いているものを後押しするよりも遥かに力がいるものですよね。

そして動く側に必要なのは、その人の能力的なものだけでなく、勇気ともいうべきものが必要かもしれませんね。

続けるためのモチベーション

緑が現在地、水色の線はそこまでの軌跡、青い矢印が動かそうとしてるベクトルです。

続けるモチベーションは、いったん始めて動いているものをある程度のエネルギーを保ったままで継続させる、動かし続けるための動機のことを指します。

何かを始めてみて最初はエネルギーが上がってゆく状況になると思いますが、やがてその勢いがなくなっていって惰性で動いている状態(マンネリや飽き)になったり、プラトー(平衡状態)になって伸びが感じられなかったり、壁にぶつかっているように感じしまったりすると、「やめようかな」とか思ったりするのではないでしょうか。

今までのような高揚感が得られないとしても、そこで辞めずに継続してゆくための動機は始める時の動機とは違っているケースが多いと思います。あるいは最初の動機が揺らいだり力を持たなくなってしまっているかも。

例えば、始めた頃はスキルアップやお客様の笑顔が目的で営業トークを勉強していたものが、上手に話せるようになったなと思った頃には売り上げで一位を目指すように変わっている…という具合に目的をシフトさせて行動を続け、小幅でも成長を続けて衰えないようにするような感じです。

ダイエットや運動の習慣化もこの続けるためのモチベーションが大切ですね。

持ち直す、反発するモチベーション

緑が現在地、水色の線はそこまでの軌跡、青い矢印が動かそうとしてるベクトルです。

持ち直すためのモチベーションは、私の考える三つのモチベーションの中で最も絞り出すことが難しいかもしれません。
これは、ピンチや厳しい状況に自分が置かれて元気すら出なくなってきている低エネルギー状況の中で力を振り絞って立ち直る、逆境から立ち上がるための動機を指します。

少し前に、私自身が体験したキャリア・ショックの話四人分働かざるを得なかった時の話をnoteに書かせていただきました。
私の仕事人生においては二大逆境かなと思っていますけれど、このままだと死ぬんじゃないかと思えるような毎日の中でエネルギーを振りしぼり立ち直らせてくれたのは、「それでも誰かのために」であったり「こんなことでヘコタレてたまるか」みたいな思いだったかなと思っています。

今風に格好よく言えば「レジリエンス」なのかもしれませんけれど、私的にはもっともっと泥臭い「ド根性」という言葉がしっくり来ます。古臭い、昭和な臭いプンプンですけれど…

誰の人生にもピンチはやってきます。その時に助けてくれる誰かがいるとは限りません。あるいは助けてもらうしかなかったことで無力感や自責の念を持ってしまうかも。
そんな時のためにこのモチベーションを起動するものが自分の中にあるかどうかを確認しておくのは意味があるのではないかなと私は思います。

モチベーションについて考える前に

さて、ここまで古典的な外発・内発の二元論と私の考えるモチベーションの3パターンを紹介させていただきましたけれど、どちらの考え方が正しいとかではなく、組み合わせができるものだということをこれを読まれているあなたは既に気づいているのではないでしょうか。

例えば、持ち直すモチベーションにおいては、外発的な動機として「給料もらえないと食っていけない」みたいなものがあるかもしれませんし、内発的な動機としては「ここで諦めては男が廃る(昭和ですね…)」みたいなものがあったり…

モチベーションの考え方って、一つじゃないと思うんです。
その人その人の個性や事情によってモチベーションは変わってきますよね。マズローの欲求階層論でいうところの生命と安全という底辺の欲求が保障されると、その上にある社会的欲求というモチベーションにギアが変わるように。

内発的なモチベーションに訴えてないから社員のエンゲージメントが低いんだとか、承認欲求が満たされていないんだとか、モチベーション理論の本を齧っただけで安直に決めつけるのは危険ですし、却ってモチベーションを下げます。
それよりも一人一人をもっと丁寧に見てゆくことが大切です。
つまり、一人の人間として尊重をすること、まずはそこからなんです。

冒頭に紹介した本を活用するなどして、自分にとって3つの状況において何が自分を突き動かすのかを考えて見るのも良いかもしれません。
きっとその先に、あなたが生きるためのモチベーションが何であるのかが見えてくるのではないかなと思います。

この記事が参加している募集

仕事について話そう

仕事のコツ

with 日本経済新聞

最後まで読んでくださってありがとうございました ( ´ ▽ ` )/ コメント欄への感想、リクエスト、シェアによるサポートは大歓迎です。デザインの相談を希望される場合も遠慮なくお知らせくださいね!