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「水と出汁」とシャンプー

油脂の話を書いている途中で少し話がずれるけれど、ご容赦いただきたい。

いまでは日本料理のおかげで、第5の味覚として「旨味」が世界で認知されるようになったことはよく知られている。これは昆布の出汁に含まれるアミノ酸の一種であるグルタミン酸の発見がきっかけだそうで、ぼくは「旨味」を日本人が発見できた理由には、日本が海に囲まれ水がキレイといった地の利があったからだと思っている。

昔、ヨーロッパのホテルでも働かれた和食の料理人さんから「あちらの水では、良い出汁をとるのが難しい」といった話を聞いたことがある。
日本の水は軟水で、ヨーロッパは硬水であることは食べもの屋さんならよく知られていると思う。硬水はミネラルを多く含むため、タンパク質を固める作用で旨味成分であるグルタミン酸やイノシン酸が溶け出しにくい。これが「昆布と鰹ぶしの出汁をとるには軟水が適している」といわれる所以であり、和食の料理人さんの話とも合致する。

ぼくは、京都と東京の二重生活をはじめて15年になる。
「東京は人が多いな、都会で何でもあるな」といった情緒的な感情はもちろんあったけれどそれはさておき、当初から明らかに京都と違うと感じたものがある。

それが「水」だった。

顕著にわかるのがお風呂に入ったときで、これはあくまでも体感だけれどシャンプーやボディソープを使った際、明らかに関西の方が泡立ちが良い。また、フランスのときほどでないにしても東京で髪を洗ったときの方がパシパシになる印象がある。これは地域による「水の硬度」の差だと、ぼくは思っている。

「ヨーロッパは硬水、日本は軟水」とざっくりと分けられがちだけれど、厳密には日本の軟水にも「硬度の高い軟水」と「硬度の低い軟水」がある。関東や九州、沖縄が前者で、関西は後者になる。つまり、関東に比べ関西の水の方がカルシウムとマグネシウムの含有量が少ない。
おそらくこの差がシャンプーなどの泡立ち方に現れているとぼくは本気で思っていて、もしぼくがシャンプーのメーカーで企画をする立場なら「赤いきつね」と「緑のたぬき」のように同じ商品でも「関東用」「関西用」と違いのあるものを出す提案をするだろうな、と考えたりする。

そう思うと、これはあくまでもぼくの想像だけれど、「軟水が日本料理の出汁に適している」といわれるように、その中でも「より適していた」のが関西の水だったことが、京都を中心に関西で和食が発展した理由だったのではないか、と思う。
もちろんそれは水だけでなく、歴史的な時代背景もあったに違いない。
単純に水だけの理由であれば、関西よりも北海道や四国の方がさらに硬度が低いのだから。

つづく

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