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焼き菓子のスゝメ 6.

ぼくが重要と考え、いつも注視していたものがある。
それが専門誌などに掲載された一流の職人さんたちのインタビューやコメント。
ご本人は当然のことのように話されているけれど、その言葉の中にこそヒントになるものが多々あると思っていた。
これらは明確な数値でないことがほとんどだけれど、ルセット(レシピ)にしても記述にない行間にこそ答えがあるとぼくは思っている。だから職人さんたちの些細な話や言葉であっても意味や意図を考えながら読んだ。 
そんなインタビューやコメントは、ルセットやパンの配合収集よりもぼくにとっては遥かに価値のあるものだった。

以前、オーボンヴュータンの河田シェフとベッカライ・ブロートハイムの明石シェフという巨匠お二人による対談を専門誌で拝読した。
そこで河田シェフが火入れについて「小麦粉の一粒、一粒に火を入れるイメージ」と話をされていたのがとても印象に残り、そのときに思い浮かんだお菓子がある。

ショソン・オ・ポム

葉の形を模したリンゴのパイで、これをルセット本などで見るとキレイな焼き色の写真が掲載され、材料の重量、作り方、何度で何分と焼成温度と時間も記載されている。でもオーブン(窯)は、季節によっては外気からの影響もあれば同じ温度に設定してもメーカーさんやモノによって気密性が違ったり、庫内の位置によっても温度差があったりとクセがある。
これは何ら大層なことを書いているわけでもなく、職人さんであれば周知のこと。

昔、お菓子屋さんとパン屋さん何軒かのショソン・オ・ポムを比較したことがあった。
見た目は溜息がもれそうになるほど模様がキレイなものもあれば、明らかに雑だなぁと感じるものまで様々だったけれど、表面の焼き色はどれも美味しそうな色だった。でも、ぼくが確認したかったのはそこではない。

ショソン・オ・ポムの一番高く浮き上がった部分をカットし、断面を見た。
もちろん火は通っているけれど白っぽいもの、中心に向かってグラデーションになっているものなどかなり印象が違った。
そしてぼくが一番期待し、恐らくそうであろうと思いながら見た一流パティスリーのものは、表面から中心近くまでほぼ均等な焼き色でとても美味しかった。

やっぱりか・・・さすがだな

確認したかったのは、これだった。
ショソン・オ・ポムなどのパイ生地に限った話でもなく、サブレやタルトに使用するパータ・シュクレなど多くの焼き菓子に共通することだと思うけれど、河田シェフの言わんとされていたことは、きっとこういうことだったのだと思う。
だから焼き菓子を作る際、ぼくはルセットにある記述を目安にはしたけれど、見た目の焼き色よりもまず目指す状態に辿り着ける焼成温度や時間を探した。

こうした考えはぼくのパン作りも同様で、一流の職人さんの何気ない言葉の中には、たくさんの教えが見え隠れしていると思っている。

つづく


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