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ブイヨンとフォン

昨日、ヴィシソワーズの作り方のところで「ここにブイヨンを加え柔らかくなるまで煮たものを」と書いたブイヨン。

ブイヨン(bouillon )は、フランス語の「沸騰する(bouillir )」から派生した言葉で、出し汁のこと。これは、日本料理が用途によって出汁の種類があるように、フランス料理にも同様に種類がある。

教科書的なことを書けば「ブイヨン」と「フォン」と呼ばれる2つに分類され、ブイヨンはコンソメやポトフ、スープの元となり、フォンはソースや煮込み料理の出し汁になる。一般的によく知られるものには「フォン・ド・ヴォ(仔牛の出し汁)」があり、他にも鶏のフォン、魚のフォン、ジビエのフォン、野菜のフォンなどがあるけれど、なぜか魚のフォンだけは「フュメ・ド・ポワソン」と呼ぶ。と、一応定義のようなものはあるけれど、これらは日本の出汁と違い、材料もかなり多ければ作るのに手間と時間もかかる。

例えばフォン・ド・ヴォを作ろうとすれば、材料だけでも仔牛のスネ肉、仔牛の骨、玉ねぎ、にんじん、セロリ、トマト、ポロ葱、にんにく、トマトペースト、ブーケ・ガルニ(香りを出すためのパセリやタイムローリエを束にしたもの)などが必要になる。そして仔牛の骨をオーブンで焼き、仔牛のスネ肉と香味野菜をそれぞれ焼いてから水を加え煮出していくけれど、常に灰汁を取り除きながら約8時間も煮る。鶏のフォンなら4時間くらい、魚のフュメは煮出す時間が短いけれど、それでも煮るだけで30〜40分ほどかかる。フランス料理を教科書通りに作ろうとすると、どれほど手間と原価がかかるか想像できると思う。

だから現実的には、ブイヨンやいろんなフォンを常備するわけでもなく、ぼくが働いていたお店ではブイヨンをとるのはコンソメスープを作るときくらいで、フュメ・ド・ポワソン(魚の出し汁)をとるのも稀だった。常備していたのはフォン・ド・ヴォとフォン・ド・ヴォライユ(鶏の出し汁)くらいで、特にフォン・ド・ヴォライユは汎用性があるので常に作っていた。とはいっても、これだけでもかなりの手間がかかる。

そう思うと、日本料理の昆布と鰹ぶしの出汁が自然なものでありながらいかに優れたもので、そこへ加える醤油もまた、どれほど素晴らしい発酵調味料かということがわかる。

つづく

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