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特例の功罪

本を欲しいと思ったとき、昔は本屋さんへ足を運ぶしかなかった。それも今のように小洒落たブックカフェや独立系書店といったものもなく、本屋さんといえば、と誰もが想像するようなステレオタイプなお店だった。
この時代の本屋さんは特段の差もなく、また同業者同士の競争もほぼなかったのだと思う。もちろん多少はあったかもしれないけれど、規模の差(品揃え)や立地くらいしか思い浮かばない。

他の業種であれば、これだけでもきっと熾烈な生き残り競争がはじまる。
それぞれがモノとサービスの向上を目指し努力をするけれど、それでも中には淘汰されるお店も現れてくる。資本主義の国で一般的な商売をする以上、この成り行きは仕方のないこと。
ところが本屋さんは事情が特殊なため、比較的そういったことが起こらなかった。だから好立地や規模の大きな書店ができても町の小さな本屋さんは、生き残ることができたのだと思う。

他方、同じような状況にあった大規模な家電量販店と町の小さな家電屋さんを思い返すと、あっという間に小さな家電屋さんが淘汰されていった。
品揃えなど諸々あるだろうけれど、言ってしまえば本屋さん同様、どこのお店で買っても同じものを取り扱っているのに。
その一番の原因が、おそらく価格競争であったことに異論はないと思う。

家電など他の小売業と違い、本は基本的に定価販売という決まりがある。そのため規模の大きな書店であれ町の小さな本屋さんであれ、同じものを同じ価格で購入することができる。だから近所の本屋さんに欲しい本があるなら、小さかろうが何ら問題もない。近所にある分、利便性もそちらの方が良い場合だってある。

無論、出版社同士は競争原理が働いているけれど、その販売店を担う本屋さんは「再販制度」と「委託制度」という独占禁止法の特例によって自由競争から除外され守られている。
つまり、再販制度によって価格競争をする必要もなければ、委託制度のおかげで売れ残った本は返品ができるためムダな在庫を抱える必要もない。

本屋さんに漂うあのゆるく穏やかな空気にもなるほど、と納得がいく。

本屋さんは利益率が低いといった嘆きも見聞きするけれど、守られることのない自由競争にいた身としては正直、そりゃそうでしょ、という感想しか出てこないんだな。

つづく

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