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アメリカでデザイン就職するための技術: 全体戦略編

2018年にNYに自費留学してきて、日本での社会人生活から一転、無収入のプレッシャーと極貧生活、コロナによる対面授業の中止・企業の採用凍結と、30過ぎにして経験するイベントとしてはベリーハードすぎる局面もあったが、あっという間に2020年、無事に学校も卒業し、コロナの中でオファーを頂き、NYで働き始め、ようやくM1のMacbookをポチれるようになった。

これまで、アメリカのデザインスクール(大学院)に留学するための技術と題して、留学ノウハウを書いてきたが、今回から、アメリカにデザイン就職するための技術について書いていく。

文章にすると簡単に留学・就職したように見えるかもしれないが、心折れかけたのは1度や2度ではない。留学するまでも相当な大仕事だったのだが、留学した後、そのままアメリカに残って現地企業で働きたいという意志があるのであれば、束の間の学生生活を楽しんでいる間もなく、在学中はもちろん、アメリカに入国したその日から戦略的に動かなければならない。
気づけば卒業後、あっという間にビザの在留期間を使い果たし、帰国せざるを得ないという状況になる。

想像してみてほしい。

もしあなたが日本の企業でデザイナーを雇おうとして、既に実績のある日本人のフリーランスデザイナーと、日本に来て2年目、日本での職歴なし、日本語も100%ではない外国人のデザイナーだったら、どちらの方が採用しやすそう、働きやすそうだろうか。

強烈なデザインのセンス・経験があれば話を聞いてみたいと思うかもしれない。だがその人が母国でやった、日本語ではないプロジェクトや、ローカルなアワードはどう日本の基準で測ればよいだろうか。その人がカタコトの日本語で説明してきたとして、その人のスキルを的確に理解できるだろうか。

まさにアメリカの企業の採用担当者も、そのような目で私を見るだろう。

日本での実績があったとしても、アメリカでの職歴・ビザ・コネ無しの外国人が、言語・文化・ビザの壁を乗り越えて、現地のアメリカ人デザイナーを差し置いて内定を勝ち取るというのは、何となく就活していてできることではない。アメリカの就職活動のプロセスを知り、攻め方を考え、確固とした軸を持って戦わなければ、アメリカで生き残るのは難しいだろう。

私は、日本のデザイン、日本人のプロフェッショナルマインドは確実に世界トップレベルだと信じているし、もっと日本人デザイナーの力を世界に広めないといけないと感じている。
そこで、世界レベルで戦えるデザイナーがもっと増えてほしい、そうした日本発の熱くて尖ったデザイン文化を醸成したいという思いから、今回から何回かに分けて、私自身の経験やプロセスを可能な限り形式知化し、アメリカでデザイン就職するための技術として届ける。
日本人の感性を活かしながら、デザインを通じて、グローバルの舞台で文字通り世界を変えていきたい。そうした志を持った未来のデザイナーにメッセージが届けば幸いである。

なお、本記事での「デザイン」は、UX/UIデザイン、サービスデザイン、ビジネスデザインといった領域を対象とし、「就職」とはインターンや短期契約ではなくアメリカ現地企業からのフルタイム採用と定義する。
また、ビザに関してもF-1(学生ビザ)からの延伸に関する、自分自身の経験を通じたトピックを中心に記し、既にグリーンカードを持っているケースや配偶者がアメリカ人などのケースには言及しない(できない)。

日本のトップ社会人も例外なく挫折するアメリカ就職戦線: MBA卒業生の事例から

日本人のアメリカ企業就職について調べていると、まず多くヒットするのはエンジニアである。実際にアメリカでは日本人の他、アジア人の割合が多い職種がソフトウェアエンジニアであり、多くの場合、コンピュータサイエンスや理工系学科の卒業生である。ベイエリアを中心に、GAFAをはじめとした大企業でエンジニアとして活躍する日本人をちらほら見かける一方で、MFA(芸術学修士)卒でデザイナーになるキャリアパスについて書かれた記事はほとんど見当たらない。また、採用プロセスや面接の質問、コミュニケーションの仕方など、多くの点でエンジニアキャリアとは異なるため、エンジニアの記事が必ずしも参考になるとは言えない。

どちらかというと、少ない情報・日本人コミュニティの中、アメリカ人で占められる職種にどう食い込んでいけるかという点では、MFA卒業生のデザインポジション就活は、状況としてはMBA卒業生のビジネスポジション就活に近い

日本での社会人経験を経て、米トップMBAに進学するというキャリアパスは、日本においてはトップofトップ社会人キャリアと言えるだろうが、そうした人たちですら卒業後、挫折し、絶望し、帰国する現状があるということをまずは知っておかなければならない。

もう10年以上前の記事となるが、Kellogg School of Management MBA '09の松山さんによって書かれた、MBAアメリカ就活マニュアルという記事を紹介したい。さすがMBA卒業生といった感じで、日本人のポテンシャルと課題を分析した上で打ち手を見出し、ちょうどリーマンショック後の大就職難にも負けずに、最後はビジネスポジションでアメリカ現地採用をもぎ取った、留学生に希望を与える記事だ。

時間に余裕がある方はぜひこの記事の熱量と気迫を見て頂きたいのだが、日本のトップofトップ社会人がここまで鬼気迫る努力をしなければならない、ということである。ここまでストイックに自分を追い込まないと外国人がアメリカでサバイブすることは難しいということである。
そこまでしてアメリカで働きたいかどうかは、自分の人生のゴールやライフステージを考慮してよく考えた方が良い。

* 現在は元記事は消えており、インターネットアーカイブでしか見ることができないのだが、後世に残したい記事。

今後書いていくこと:デザイン就活における技術

上記の記事に大いに感化された部分もあるが、デザイナー版のアメリカ就活マニュアルを作りたい。おそらく今後、下記のような内容を書いていく。

1. 大学院2年間の動き方と、アメリカで最初の職歴をつけるための技術

アメリカでサバイブする上で一番難しいのは、多くの周りの人も言うのは、アメリカでの最初の職歴をゲットするところである。一旦、日本ではなくアメリカで働いた経歴がある、というトランジションに成功すれば、面接に呼ばれる確度もアップしてくるし、一回でもGAFA初めアメリカのメガ企業で働いた経験をレジュメに載せることができれば、ネームバリューで面接に呼ばれるので、その後のキャリアはほぼ約束される。

各ターム(時期)別にどのくらいのスピード感で動かなくてはならないのか、そして最終的に企業からオファーを獲得することから逆算して、アメリカ生活1年目からやっておくべきことについて整理する。下記のようなステップを踏めることが望ましいと考える。もちろん英語力も引き続き向上させる必要がある。

・大学院1年目の動き方
 ・1ターム目: 就活準備(レジュメ、ポートフォリオ)
 ・2ターム目: SSNとアメリカの職歴を獲得する(学校のjob、サマーインターン)
・大学院2年目の動き方
 ・3ターム目: スタートアップでCPTを獲得する
 ・4ターム目: 企業からのフルタイムオファーを獲得する

2. 個別のインタビュープロセス対策と面接を突破する英語技術

デザイナーの採用プロセスにおいては、ポートフォリオレビュー、ホワイトボードチャレンジなど、デザイナー特有のプロセスがある。また、デザインマネージャークラスの面接では、手が動かせるだけでなく、デザインプロセスや新卒デザイナーへのメンタリングのアプローチなど、デザイン態度や行動規範に関する質問に適切に答えられなくてはならない。もちろん英語で。これらのプロセスとスキルセットについてもまとめていく。

・レジュメ、ポートフォリオの作成
・どこからApplyするか、いかにしてコネを作るか
・Portfolio Review対策
・Whiteboard Challenge対策
・Behavior Question対策、受け答えの態度

3. 失敗しても、嫌味な質問されてもメンタルを強く保つ技術

面接の中で今でも忘れられないのが、「日本での君の仕事、素晴らしいじゃないか。ウチに来るより日本に帰ってその仕事続けた方がいいんじゃないか?」なんて嫌味な質問を、とある大企業のデザインマネージャーからされたことがある。その時はうまくさばけずにそのまま落ちてしまってめちゃくちゃ凹んだ。それでも、そういう失敗から次はじゃあどう答えればいいのかを常にアップデートしていくことで、受け答えの技術は確実に上がっていく。100社落ちても、100回プレゼンの練習を続ける、折れない心が必要だ。今でもLinkedInでそのデザインマネージャーの顔を見ると嫌な気持ちになるが、次に会ったときにはてめぇだけは絶対にブッ飛ばす

ちなみにこんな質問してくる面接官はごく稀なのであしからず。

アメリカの企業はとにかく落ちまくる。別に面接とか受け答えのせいだけではなく、そもそも外国人を雇ってなかったり、ビザのスポンサーする気が無かったりするような企業は応募してもそのまま門前払いだったり、返事も来ないこともザラだ。

良くも悪くも、アメリカの就労というのは企業と個人が非常に対等でフラットである。企業側が一方的に応募者を選別する、応募者も教科書通りのプレゼンして雇ってください!ではなく、「コロナ以降どう?プロジェクト楽しい?」みたいな感じでカジュアルにコミュニケーションしながら、自分からもこの企業が本当に良い企業なのかどうか、この人と働いたら面白いかどうかを見定めるようなプロセスになっていると感じる。そもそも日本の就活のマインドセットとはまた異なる態度が必要であるように感じるので、どのようにメンタルマネジメントをしていけばいいのか、指針を提示したい。

4. 戦略的にビザを繋ぐ技術

最後に、アメリカで生存するのにもう一つハードルとなるのがビザである。ビザマネージメントをミスると企業で働いていても強制的に帰らざるを得ないなんて状況が発生するので、戦略的に次のビザをどう獲得するかが重要となる。

既にグリーンカードを持っている人なんかは本項は読み飛ばして良いし、アメリカで働く上ではビザ無しと比べれば天地の差がある。グリーンカードを授けてくれた親や配偶者に感謝しよう。

本編では私のケース(F-1学生ビザで大学院留学で来るケース)について説明する。アメリカの大学院に留学すると、多くの場合F-1ビザ(学生ビザ)で来ることになるが、このビザは卒業後、OPTという学校で学んだことを活かして外国人が就労できる期間が与えられる。

OPTは通常1年で、STEMという理工系の学科に登録されていれば、最大3年まで延長できる。この期間を利用して企業に就職し、その企業がスポンサーしてくれればその次のH1Bというより長期の就労ビザ(6年)、そしてグリーンカード(永住権)と道が開けてくるわけだが、話はそう簡単ではない。

このOPT期間中に、3ヶ月無職期間(就職先を見つけられなかった)があると、OPT失効となり、帰国せざるを得ないという厳しい規定があったり、特にデザイナーの場合、相当の大企業でないとH1Bスポンサーに付いてくれなかったり、たとえスポンサーしてくれたとしてもH1Bビザは応募者の多さから近年は最後抽選で運頼みだったりするので、アメリカにビザの心配なく安住して働けるという状態になるには3年、5年、下手すると10年単位の時間がかかってしまう。

多くのエンジニアブログなどでも触れられている通り、正攻法はF-1ビザ→H1Bビザ→グリーンカードというパスで間違いないのだが、デザイナーの場合はO-1(アーティストビザ)や直接グリーンカードに出すなんていう別の選択肢もあり得る気がしており、本記事ではそうしたH1B以外のオルタナティヴな可能性について書いていきたい。
さすがに留学するお金と時間は無いよ・・日本から直接アメリカの企業で働く方法は無いの?なんて質問も頂くので、一応個人的なアイデアも提示したい。もう21世紀なんだから、国境を超えて働けたっていいじゃないか、とは思う。

今回はここまで

今回は導入編ということで、次回から核論に入っていく。

こう書いておいて何だが、1,2,3で挙げたような、いかにデザイナーとして最初のキャリアを獲得するかだったり、いかに面接で適切なコミュニケーションをするかだったりは、別にアメリカに限った話ではなく、日本でも重要であることに変わりはないので、結局就活の勘所は日米でそんなに違わないのかもな、とも思うので、一通りこれらの話が整理できた暁には、ぜひ色々とご意見いただければ幸いである。
基本的には何事も正しい戦略のもと、実力と努力で乗り越えるしか無いと思うし、それはたとえ最終的に望まない結果になったとしても、チャレンジした自分にはまた新しい未来が開けてくると信じている。

私個人としては、2016留学の勉強、2017出願準備、2018渡米、2019学業、2020コロナ・就活とここ5年くらい心休まる日が無く、来年も次のビザに繋ぐために日本に帰れず、6年連続正念場みたいな意味わからない日々を送っていますが、だいぶ心技体共に強くなったと思いますし、常に自分のキャリアハイを更新している感じで楽しくやっております。

お陰様で多くの方からnoteを辿ってデザインスクール留学をしたいという方からコンタクトや質問を頂いたりしているので、そういった人たちの希望の火が消えないように常に未開の荒野を走り続けたいと思っていますし、この記事が、遥かなる未来の誰かの成長に繋がれば此れ幸いです。

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