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IWJ検証レポート~米国の有識者が米中の国力逆転を認めたアリソン・レポートの衝撃!(その9)。A2/AD圏は第2列島線まで拡大! 中国と米軍隔つ距離がA2/AD戦略の原動力! 米国は核の優位性頼れず!

(仮訳、文・IWJ編集部 文責・岩上安身)

 本記事は、「IWJ検証レポート~米国の有識者が米中の国力逆転を認めたアリソン・レポートの衝撃!」の第9弾で、「アリソン・レポート」「Military(軍事)」篇の「中国のA2/ADの優位性」の章の仮訳を掲載する。なお、第1弾~第8弾は本記事末尾でご案内する。

 米ハーバード大学ケネディ行政大学院(ケネディスクール)のグレアム・アリソン氏が中心となって作成し2021年12月7日に発表されたレポート「The Great Rivalry: China vs. the U.S. in the 21st Century(偉大なるライバル 21世紀の中国vs.アメリカ)」(以後、『アリソン・レポート』)は、米国が、中国との対比で自らの技術と軍事を冷静に自己評価した重要なレポートである。

 米国が中国の技術水準と軍事水準をどう見ているのか、また、今後、米中覇権競争が技術と軍事という中心的な領域でどう競いあうのかを見極めるための必読文献の一つである。

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▲『アリソン・レポート』を作成したケネディ・スクール元学長のグレアム・アリソン氏(Wikipedia、Mass Communication Specialist 2nd Class Zach Allan, U.S. Navy)

 この「中国のA2/ADの優位性」の章では、中国の作戦地域への敵の侵入を阻止し、域内での行動を制限する「A2/AD」戦略が、いかに米軍の戦力を封じ込めるかを論証している。中国の「A2/AD」圏は現在、日本列島を通る第一列島線の内側だが、2025年には第二列島線まで拡大すると指摘している。

 そもそも米中を隔てる巨大な距離が「A2/AD戦略」の原動力になっている上に、中国が保有する膨大な中距離弾道ミサイルが、米国が誇る空母を主体とする戦力を封じ込めるとされる。

 さらに中国は、核弾頭数は米国の5%以下にもかかわらず、核戦争を抑止する報復能力には十分だとして、「最小抑止力」戦略を掲げているという。レポートからは、敵に攻撃させず、「戦わずして勝つ」中国の戦略思想までうかがい知れるようだ。  詳しくは記事本文を御覧いただきたい!

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▲「中国の拡大するA2/AD圏(China’s Expanding A2/AD Envelope)」の2025年予測。A2/AD圏は第2列島線の内側まで拡大し、軍備は全カテゴリーで、中国人民解放軍が米国のインド太平洋軍を圧倒している。(The Great Military Rivalry:China vs the U.S.(HARVARD Kennedy School、2021年12月15日)(pdf))

中国は、米軍の侵入を阻止・行動を制限する「A2/AD」戦略を展開!

 本記事では、全52ページの「Tech(技術)」と、全40ページの「Military(軍事)」の2部構成からなる『アリソン・レポート』の「Military(軍事)」篇の「中国のA2/ADの優位性」の1章分を全篇仮訳してご紹介する。

The Great Tech Rivalry: China vs the U.S.(HARVARD Kennedy School、2021年12月7日)(pdf)

The Great Military Rivalry:China vs the U.S.(HARVARD Kennedy School、2021年12月15日)

 なお、「Military(軍事)」篇は、英文全40ページで、「Executive Summary(要旨)」「The Rise of a Peer(対等者の台頭)」「China’s A2/AD Advantage(中国のA2/ADの優位性)」「War Games: A Perfect Record(ウォーゲーム:完璧な記録)」「Technologies of the Future(未来のテクノロジー)」「The Curious Question of Defense Spending(防衛費という不思議な問題)」「Conclusion: Where Do We Go from Here?(結論:我々はここからどこへ向かうのか)」という7章から構成されている。

 以下から「中国のA2/ADの優位性」の章の翻訳となる。注記(「原注」と表記したものを除く)と小見出しはIWJ編集部が便宜上付与した。

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「中国のA2/AD(※1)の優位性  2021年3月に米海軍のフィリップ・デビッドソン大将が証言したように、北東アジアの軍事バランスにおいては『(中国が)一方的に現状を変えようと勢いづきリスクが高まっている』。

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▲米インド太平洋銀司令官を2018年から2021年まで務めた米海軍のフィリップ・デビッドソン大将(Wikipedia、U.S. Navy、Adm Davidson 2014)

 オバマ政権で国防次官だったミシェル・フルールノア氏によると、北京の接近阻止/領域拒否(A2/AD)能力が『最大の懸念』である。

 このシステムは、米国の指揮・統制ネットワークを混乱させ、戦闘力を低下させることで、A2/AD圏内(原注1)での米軍の戦力投射(※2)や戦力展開を阻止するように設計されている」

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(※1)A2/AD:  「antiaccess/areadenial、接近阻止/領域拒否」の略。2012年1月17日に発表された米国防総省の「統合運用接近概念(JOAC)」ver 1.0の中で次のように定義されている。
「本稿では、『接近阻止』(antiaccess)とは、敵対勢力が作戦地域に侵入するのを阻止するための行動や能力(通常は長距離)を指す。
『領域拒否』(areadenial)とは敵対勢力の侵入を防ぐのではなく、作戦エリア内での行動の自由を制限するための行動や能力を指す。通常は短距離である」(同書p.5)

参照:
 ・JOINT OPERATIONAL ACCESS CONCEPT(JOAC)(国防総省、2012年1月17日)
【URL】https://dod.defense.gov/Portals/1/Documents/pubs/JOAC_Jan%202012_Signed.pdf

(原注1)A2/AD圏内:  A2/AD(接近阻止/領域拒否)は、ほとんどの場合、1つの言葉で表示される頭文字だが、実際には2つのコンセプトを含んでいる。
 接近阻止システム(Anti-Access system)は、米国がその地域へ展開するのを防ぐためのものであり、領域拒否(area denial )は、全領域で米軍の自由な活動を阻止し作戦目標達成を妨害することを目的にしている。

(※2)戦力投射:  power projection. 軍事力を準備・輸送・展開して軍事作戦を遂行すること。

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中国の「A2/AD」圏は日本列島を通る第一列島線までだが、2025年には第2列島線まで拡大!

 「現在、中国のA2/AD圏は、中国本土から100マイル(約161キロメートル)の位置にある台湾と、中国本土から400マイル(約644キロメートル)の位置にある日本の琉球諸島を含む第一列島線の内側となっている。

 しかし、デビッドソン大将が議会に提出した図によると、中国のA2/AD圏は、2025年までに第2列島線(※3)まで拡大する可能性があり、それには、中国から1800マイル(約2897キロメートル)離れたグアムの米軍施設も含まれる。

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▲左が第一列島線、右が第二列島線(Wikipedia、DoD、Geographic Boundaries of the First and Second Island Chains

 より鮮明な説明として、1999年から2025年予測までの、拡大する中国のA2/AD圏を示す上述のインド太平洋軍の略図を見てほしい(原注2)(※4)」

※この記事はIWJウェブサイトにも掲載(https://iwj.co.jp/wj/open/archives/502364)しています。
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